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受け入れてもらえる関係づくりこそが究極の接遇 高橋啓子の接遇研修案内はこちら

ホームページを通した人々とのかかわり
高橋啓子(以下,高橋)安形さんのホームページを拝見しますと,その掲示板には実にさまざまな方が書き込みをされていますね。医療・介護・福祉の専門職だけでなく,一般のご家庭で介護されている方の書き込みなどもありますよね。


高橋啓子

安形幸子さん

安形幸子さん(以下敬称略,安形):ホームページを始めたのは,私が介護福祉士の資格を持つようになってからなので,かれこれ6年以上になります。その間,見ず知らずの方やご近所の方からの掲示板への書き込みを通して,介護現場で働く者同士,あるいはご家庭で介護されている方などと悩みを打ち明け合って励まし合い,時にはストレス発散の場になったり,介護の在り方について真剣な議論の場になったりしています。
高橋:見ず知らずの間柄であって,それが仮にバーチャルな場であったとしても,安形さんやホームページに集まってくる方々の書き込みに励まされたり,癒されたりするんでしょうね。
安形:私自身が励まされることも多いのですが,とにかく,書き込みに対して反応してくれるのがうれしいですよね。ただ,顔が見えませんし,必ずしもツーカーの関係が通用するわけではないだけに,書き込む内容や表現の仕方には注意しています。顔を見ながらであれば否定的な言葉から入っても大丈夫でしょうが,掲示板では,書き込まれた内容について,まずは「受け入れる」「共感する」という姿勢で対応するようにしています。掲示板を運営するなかで,私はそのことの大切さを学びました。

コンビニ世代に必要な要素
高橋:ホームページの掲示板への書き込み一つとってみても,書き込みをしてくださった方への気配りは大切だということですね。それができるかできないかは,その人の人間性というか,資質の問題だと思うのですが。
安形:私は「できる」「できない」という問題で言えば,それは必ずしも資質の問題ではないと思っています。仕事でも何でもそうですが,いかに自分が楽しんで行っているかということが重要なのだと思います。言い換えれば,自分にとっていかに苦痛のない環境であるかということなのでしょうね。
高橋:そのとおりだと思います。仕事でも,労働して賃金をもらうだけだとつまらないですものね。今の若い介護職の人たちをご覧になっていて,その辺りは安形さんにはどのように映っていますか。
安形:確かに,割り切って仕事をしている若い介護職もいます。もちろん,介護職としての向き不向きもあるでしょう。けれども,介護職としての熱い気持ちを持って就職する人たちも多いです。
 また,これは仕方がないことなのかもしれませんが,今の若い人たちの中には,洗濯機の使い方さえもわからない人が結構いるのですよ。コンビニ世代と言われるように,家庭の中での生活動作を自分自身がやってこなかったというか,教えてもらってきていないということなのでしょうが,そういう意味では,私もそのことを十分に理解した上でかかわっていかなければなりませんし,場合によっては若い介護職の感覚に合わせなければならないと思うことがあります。
高橋:施設に入所している利用者の機能が低下していくさまを見て,やりがいをなくしてしまう若い介護職の話を聞いたことがあります。最近,安形さんは『さっちゃんのケアプランエッセンス』(日総研出版)という本を出版されましたが,そのなかで「MILK」という,介護職の利用者に対する援助活動に必要な4つの要素を示されていますよね。でもよく見ると,この4つの要素は,介護職の方々にも吸収してもらいたい要素なのではないでしょうか。

 (Motivation):動機を生み出すもと
 (Intention):興味を持続させるもと
 (Locomotion):身体や頭を動かすもと
 (Keeping):動き・行為を持続させるもと

安形:そうなんです。6年前に自分自身に言い聞かせるような気持ちでホームページに書いておきながら,実は今頃になってそう思っているのです。
 自分自身を振り返ることは大切ですが,いつまでも失敗したことを悔やんでいるよりも,思考をポジティブに切り替えて,次のこと,明日のことを考えていくことで,仕事観や介護観を変えていくことができると思うのです。それに,私たち介護職のかかわり次第で,利用者の身体機能が十分に回復していくこともあるということに,早く気づいてほしいのです。
 そういう意味で,若い介護職の仕事観や介護観に対して働きかけていくのが,私たち先輩と呼ばれる介護職の役割だと思っています。

 

北風と太陽
安形:若い介護職のなかには,本や学校で学んできた知識はあって,ケアプランに「見守り」という言葉があると,転倒してけがをされては困るということで車いすに座らせたままにしてしまうなど,融通が利かなかったり,直接介護での自分の対応に自信がなくて,まるで腫れ物に触るかのような過剰介護をしてしまったりする人もいるのですよね。それでは利用者は不安になりますし,場合によっては不利益を被ったり,自立支援につながらなかったりするということを注意しているのですが…。本や学校で学んだ知識と,人との触れ合いの在り方とのバランスを,どのように身につけてもらうかが非常に頭の痛い問題です。
高橋:確かに,腫れ物に触るような対応では,接遇という観点にも反するでしょうからね。それでは,自信のある対応ができるようになるには,どうすればよいのでしょうか。
安形:ある程度の経験の積み重ねというか,慣れは必要だとは思いますが,私はその利用者とどのような関係をつくるかということが大切だと思います。体位変換や入浴介助の際,多少粗雑な対応だったとしても,その利用者が介護している介護職をいかに信頼して受け入れているかで,ケアの良しあしが決まるのではないかと思います。
高橋:なるほど,介護という仕事は人と人とが触れ合うわけですから,人間関係や信頼関係がなければ成り立たないということですね。「受け入れる」「受け入れられる」という関係が確立されれば,「この人に任せておけば大丈夫」という,接遇という枠を越えた究極の接遇応対ができるということなのでしょうね。
安形:自立支援ということで,利用者ができることは,極力自分で行っていただくようにしています。まれに,「この施設は何にもやってくれない!」と怒ってしまう利用者がいらっしゃいますが,そこはやはり「あなたのことが嫌いでそうしているのではないのですよ。あなたのことを大切に思っているからなのですよ」ということを,ゆっくりと時間をかけて説明し,接していきます。すると,次第に理解を示してくれるようになるのです。「北風と太陽」の話のように,嫌がることを無理やり強引に実行するというのではなく,ハートのキャッチボールといった温かい対応を心掛ければ,それを受ける側も,心の衣を1枚ずつ脱いでくださるのだと思っています。

言葉の最後に「ね」を付けて
高橋:若い人に限ったことではありませんが,自分を変えることは難しく,何事もストレートに言葉を発してしまって誤解を受けやすい人っていますよね。つまり,言葉の遊びや選び方が下手な人とでも言うのでしょうか。
安形:私は,語調の強い若い介護職に,「言葉の最後に『ね』を付けてごらん」とアドバイスしています。例えば,「飲んでください」「起きてください」だけだと,どうも指示されている,指導されているという感じがしますが,これに「ね」を付けると「飲んでくださいね」「起きてくださいね」と,柔らかくお願いしているような言葉になります。「食べなさい」だと完全に命令口調ですが,「食べなさいね」とすることで,少し柔らかい言い方になると思いませんか。
高橋:微妙な違いですが,「ね」を付けるか付けないかで,言葉を受ける側にしてみれば,確かにかなりニュアンスが違って聞こえますね。勉強になります。
 言葉の使い方ということで言うなら,最近の若い女性が「メシ食いに行こう」などと言っているのを聞くと,びっくりしてしまうのですが…。
安形:いますよ,そういう人。さすがに利用者に対して「メシ食ってね」なんて言う人はいませんが,同僚に対して「メシ食った?」とか言っている若い女性…。内輪とはいえ,どこで利用者や家族の方が聞いているかわからないので,そのような時は即座に指導です。いくら信頼関係があるからと言っても,利用者に対して口にして許されるものではありません。「お食事は召し上がりましたか?」とまで言わなくても,せめて「ご飯,食べた?」くらいの言葉遣いにしてほしいものです。
高橋:普段から使っている言葉がついつい出てしまうのでしょうね。「どうぞ,召し上がってください」と言うべきところを,「どうぞ,食ってください」なんて言われたら,驚愕ものですものね。

 

受け入れてもらえる関係づくり
高橋:さて,先ほど「受け入れてもらえる関係づくりが大切」という話がありました。利用者との信頼関係が出来上がるまでには,形式的な応対が必要な時期もあるとは思いますが,その使い分けができるようになって,受け入れられる関係をつくっていく過程が,もしかすると究極の接遇なのではないかということにも言及しました。
 そこで,もう一度お伺いしたいと思います。「受け入れてもらえる関係づくり」の秘訣とは何でしょうか。
安形:このようなことを言ってはいけないのかもしれませんが,私は時々,「昔の介護現場の方が楽しかったな」と思うことがあります。介護保険制度が始まって,利用者本位,自立支援ということが強く叫ばれるようになって,私たちはやっと利用者の「人としての尊厳」というものを真剣に考えるようになり,自立を促す支援に必死になって取り組んできました。介護支援専門員としてケアプランをつくるようになって,できるだけ離床して活動的に生き生きと過ごしていただけるようなプランを作成しています。しかし,ある利用者からこのようなことを言われたんですよ。「こっちはのんびり寝ていたいのに,起こすプランをつくるなよ」って…(笑)。
 施設に入所されている利用者は,やはりご自宅で介護を受けられないそれなりの理由があるわけです。当施設は個室対応でもユニットケアでもありませんが,4人部屋で暮らしている利用者は,そのなかで4人の社会をつくっていらっしゃいます。そして,そこでご自身らしい生活ができることを強く望んでいらっしゃるのです。それは,介護をする側の私たちから見てもよくわかります。私たちはそのことを理解し,そのお手伝いをさせていただいている…そう思った時,自然と利用者の方から心を開いてくださいました。身体を起こすことは,その方の心をも起こすことなのだということに気づいてくださって,私が稚拙なケアをしていても,利用者は,自分のことをわかってくれていると,少々辛抱して受け入れてくださいました。
 そして,冒頭でもお話ししたように,この仕事が好きだから,楽しいから続けているのだということ,これが利用者にも伝わるのだと思います。そういう介護職はやはり,利用者から受け入れられるのだと思います。
高橋:感慨深いですね。

 最後に,安形さんが,今のお仕事を続けてこられた元気のもとといいますか,「さっちゃんのMILK」とは何でしょうか。
安形:簡単に言ってしまえば,目の前にやることがいっぱいあって,そのなかから面白いことや楽しいことを見つけて,ポジティブに生きていこうとする自分を好きになることでしょうか。明日のたくさんのスケジュールを,重荷で嫌なことだと考えず,自分自身を成長させてくれる楽しいプランだと思うことにしています。そして,「自分が歳をとった時には,元気な意地悪ババアになってやる!」というくらいの根性で頑張っていくことが大切なのではないかと思っています。
高橋:ぜひ,見習いたいと思います。
安形:あまり見習わない方がいいかも(笑)。
高橋:そういった前向きな気持ちを持った介護職がより多く育ち,これからの超高齢社会を支えていくことを期待したいものです。
 本日は,ありがとうございました。

(取材/日総研グループ 西本茂樹)

安形幸子さんの『さっちゃんのこちら介護部』のホームページはこちら
http://www.amitaj.or.jp/%7Eangata/welcome.html

 
次回予告:

次回は「接遇インストラクター基礎養成コース セミナーレポート」をご紹介する予定です。

 

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