電子レンジの料理は、素材が持っている水分にマイクロウェーブが当たって加熱される仕組みです。この仕組みに最適な、均等に熱を通すことができる調理鍋があれば、｢どなたでも間違いなく上手に、短時間で｣おいしい料理を生み出せます。そう思って10年にわたり、電子レンジ用調理鍋やケーキ型の開発に携わってきました。2002年に生まれた白い｢クック膳｣は、経済産業省「第22回プラスチック日用品優秀製品コンクール」で大賞をいただいています。その後、出版したレシピ本の読者・消費者の方々から｢カレーのレシピが欲しい」というお声がたくさん寄せられました。カレーで使うスパイスのターメリックなどには強い着色性があり、そこで料理の色に強い、黒い「クック膳」を作ろうと思いました。

　「クック膳」はポリプロピレン樹脂製品。物造りに優れた日本の技術力によって国内で全工程を製造しており、品質はとても安心できます。それでも技術者の方にとって黒い色を出すのは難しく、約２年の歳月をかけ、ようやく黒い「クック膳」が誕生しました。

　並行して私は、カレーのレシピ開発を始めました。日本のレトルトカレー全商品を口にし、ニューヨークではカレーで評判のお店やインド人街のカレー店をほとんど食べ歩き、またカレーは世界中にあるので、ヨーロッパやアジアにも行くたびに味わいました。ニューヨークの書店ではインドやネパール、ベトナム料理関係の本もたくさん買い求め、研究しました。そんな日々に、食べ歩きやレシピ開発の実験をともにやってくれた娘、暁子がいなければ続けられなかったと思います。

　最後は、本場インドを２週間取材。ホテルやレストラン、一般家庭などで多くのカレーを食べ、スパイスを見て歩きました。聖地ブッダガヤでお坊さんが泊まるホテルのカレーがシンプルで一番おいしい、と感じ、また、お孫さんがいるご家庭で、離乳食に辛くないダルカレー（お豆のカレー）を食べさせていることに感心しました。各家庭で独自のスパイスの組み合わせがあるのも、興味深いものでした。最終的には、それまでに食べておいしかったカレーの味を、スパイスの組み合わせを試しながら「クック膳」で一つ一つ再現し、私のレシピが完成しました。

　スパイスは面白いもので、小さじ1/2使うべきところを小さじ１にしてしまうと、全体のバランスを欠いてしまいます。スパイスの最適な組み合わせと量の配合比によって、複雑で絶妙な味が生まれるのです。もちろん、メイン素材が違うだけで味が同じでは意味がないので、肉や魚介、野菜本来の味もきちんと引き出しつつスパイスを合わせて、一つ一つのカレーの個性を際立たせました。

　特筆したいのは油の使用量です。
　インドはもちろんニューヨークのレストランでも、カレーには油が多めに使われます。スパイス類の多くは親油性で、油によって香りも効能も引き出せることが多いからです。でも、ヘルシーさは「最重要課題」。私は「体にいいオリーブオイルを使い、量は多くても大さじ１」と定め、その中でレシピを確かなものにしました。

　今まで、カレーはコトコトと１〜２時間煮込むほうがおいしいとされてきましたが、それでは目が離せないし、焦がしてしまうこともあります。こびりついた鍋を洗うのも大変。「クック膳」はレンジ加熱の仕組みを生かした二重構造なので、材料と調味料、スパイスを合わせてほんの７〜10分でとびきりスパイシーなカレーが完成します。素材のフレッシュな味わいを失うことはなく、後片づけもぐんと楽です。

　うれしいのは、スパイスの効能です。カレーを食べて汗が噴き出したご経験があると思いますが、スパイスは新陳代謝を促して体を活性化します。ターメリックに含まれるクルクミンという物質は､認知症などに役立つという研究発表もあります。
　カレーで若さを保てるなら最高です。黒い「クック膳」でどなたでも簡単に、おいしいカレーを作っていただきたいと思います。