特定非営利活動法人 コミュニティ・ケア・ネットいずみ
代表理事:森田靖久


   

 私は,1999年から現任のケアマネジャーを対象に,アセスメントやケアプラン作成に関する講義を行ってきました。また,2004年から現在に至るまで,市町村が実施する介護給付適正化事業に携わり,ケアマネジャーへの支援を行っています。これらの活動を通じて,ケアマネジャーからアセスメントやケアプラン,モニタリングについて「どう書いたらよいのか」「どのようにまとめたらよいのか」といった悩みを聴くことがよくあります。
 今回の連載では,ケアマネジメント過程ごと(アセスメント,ケアプラン作成,モニタリング)の基本視点を押さえつつ,ケアマネジャーの悩みとなっている「記載方法」や「まとめ方」をお伝えしていきたいと思っています。陥りやすい傾向から脱却し,あるべき記載方法を理解するのに役立ててください。 第1回は,アセスメント(課題分析)の展開方法やまとめ方について,事例を通じて理解を深めていただきたいと思います。

アセスメント(課題分析)とは

 アセスメントとは,利用者の心身の状態,生活環境,介護力などを総合的に把握し,利用者・家族が直面する課題を整理し,その原因・要因をあらゆる面から分析した後に,今後起こり得るリスクや改善できる可能性を見立て,専門職が考える課題と利用者・家族の意向とをすり合わせた上で生活課題(ニーズ)を導くことです。
 また,上述の内容に加えて,合意されたニーズに対する目標を達成可能なレベルで立案した後に,目標達成に必要な支援方法および社会資源を検討するまでを言います。

アセスメント(課題分析)の展開方法

 アセスメントは,単なる情報収集で終わらず,分析することが必要です。ここでは,アセスメントの展開方法について説明していきます。

◎プロセス1-情報収集

・利用者の心身の状態,生活環境,介護力などを総合的に把握します
(最低限,課題分析標準項目は情報収集する)。
・本人や家族の「主訴」や「望む暮らし」を把握します。

◎プロセス2-分析

1)現在の生活障害を明らかにします。
 疾患名のみを書くのではなく,生活する上での障害(困り事)を洗い出します。

 →記載方法の一例「〜(疾患や状態など)によって,〜できない」

2)生活障害の原因・背景を分析します。
 生活障害の原因には,疾患や能力,薬剤,環境(住環境・人的環境),生活スタイルなどがあり,
 あらゆる角度から考えることが必要です。

 →記載方法の一例「〜(疾患や環境など)によって,〜となっている」

3)予後予測(改善の可能性,悪化の危険性)を行います。
 利用者において「今後起こり得るリスク」や「改善できる可能性」の見立てを行います。
 ケアマネジャーは自分一人でこれらの見立てをしようと思わず,主治医や看護師,介護福祉士,
 ヘルパー,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,薬剤師,栄養士,歯科衛生士,社会福祉士など,
 あらゆる職種の考え(見立て)を活用すればよいのです。

 →記載方法の一例「〜により,〜の危険性がある」(起こり得るリスク)
 「〜を行うことで,〜できる可能性がある」(改善の可能性)

4)専門職が考えるニーズを導きます。
(ノーマティブニーズ)1)2)3)を踏まえて,どういった方法(ケアおよびセルフケアなど)を用いて,利用者がどのようになるのか(状態像)を考えます。専門職として,利用者・家族に提案する内容となります。

 →記載方法の一例「〜に取り組み,〜できる」「〜することで〜となる」

5)専門職が考えるニーズに対する本人・家族の意向を確認します。
 4)で提案した内容に対し,本人・家族それぞれの意向を確認します。

 →記載方法の一例「〜を行い,〜となりたい」(本人)
         「〜できるようになってほしい」(家族)

6)専門職が考えるニーズと本人・家族の意向とをすり合わせた
 「合意されたニーズ(リアルニーズ)」を導きます。
 4)で提案した内容(専門職が考えるニーズ)と,5)で利用者・家族が述べた意向とを
 すり合わせて,ニーズを設定します。

  →記載方法の一例「〜できるようになりたい」「〜したい」

 

〈分析の例〉脳梗塞による左上下肢に麻痺があり,歩行が不安定なケース

1)生活障害 歩行が不安定で転倒を繰り返している。
2)原因・背景

・脳梗塞後遺症による左上下肢麻痺がある。
・ 転倒への不安から活動を制限してしまい,筋力が低下している。
・ 降圧剤の副作用による起立性低血圧があるため,立ち上がり時にふらつきが見られる。
・食欲の低下により栄養状態が悪化している。
・自宅内に段差が多く,移動や外出が困難。
・自宅周辺も坂道があるため,外出が困難。

3)予後予測

・ 麻痺と筋力低下による歩行の不安定さがあり,転倒・骨折の危険性がある。
・ 薬剤の調整や栄養状態の改善により,ふらつきやめまいがなくなる可能性がある。
・ リハビリテーションを利用することにより下肢筋力が向上して,歩行が安定する可能性がある。
・ 歩行に自信がつくことで,日常生活での活動性の向上が期待できる。
・ 段差を解消し安全な外出手段を確保することで,屋内の移動が容易になり,外出にも前向きになれる可能性がある。

1)〜3)をまとめる

4)専門職が考えるニーズ

 リハビリテーションにより下肢の筋力低下を予防することや,服薬や栄養状態の改善に伴って体調が整い,歩行が安定する。また,住環境の改善や外出手段の確保をすることで,屋内移動や外出が容易にできるようになる。

提案

5)本人・家族の意向

本 人:リハビリをしてしっかり歩けるようになりたい。
家 族:トイレには自分で行けるようになってほしい。

すり合わせる

6)合意されたニーズ(リアルニーズ)

 トイレに一人で行けるようになりたい。

アセスメントの留意点 〜よくあるアセスメントの傾向

 これまで数多くのアセスメントを見てきた中で,次のような傾向があることに気づきました。


独自のアセスメント様式を活用しており,情報項目が不足している

 基本情報の「課題分析標準項目(23項目)」に沿った情報の収集と整理が,最低限必要となります。多くのアセスメント様式(MDS-HC方式,ガイドライン方式,三団体方式,社会福祉士会方式,介護福祉士会方式,訪問看護財団方式など)には,課題分析標準項目が含まれています。独自でアセスメント様式を作成している場合は,項目を押さえているかを確認してください。


アセスメントから利用者の状態像がイメージできない(個別性が見えない)

 利用者が生活してきた中で大切にしてきたものやエピソード,価値観,趣味,得意なことや苦手なことなど,「その人らしさ」を象徴する情報を把握することが必要です。アセスメントシートにその人らしさを記入できる項目がない場合は,特記事項や余白,まとめの欄を活用するとよいでしょう。


主訴の把握はできているが,望む暮らしの把握ができていない

 主訴は利用者や家族が抱える問題状況を理解するための「入り口」であり,重要なのは,真のニーズを導くための情報収集とアセスメントです。困り事を訴える利用者の言葉の裏には,相反する心理が潜在しています。「仕方がない」というあきらめの気持ちと同時に,「何とかしたい」と願う気持ちが秘められているのです。
 利用者自身が意識できていない「望む暮らし」について,ケアマネジャーが丁寧に向き合い,語りかけることで,利用者自らが「望む暮らし」を具体化させていけるようサポートすることが重要です。


本人・家族の意欲や能力(ストレングス)をとらえておらず,自立支援の視点が不足している

 アセスメント表に記載されている情報は,「できないこと」や「支援が行われていること」にチェックが記載されているだけの状況が少なくありません。
「できていないこと」だけでなく,「できていること」や「できそうなこと」をしっかりとキャッチした上で,そのことについて「どうすればよくなるのか」といった視点で検討することも必要です。


生活障害の原因分析や対処方法の検討がなく,サービスに直結させる思考になっている

 「入浴ができていないのでデイサービス」というように,困り事からサービスを直結させる思考でのアセスメントが少なくないように感じます。入浴がなぜできていない状況なのか(原因分析)と,原因を踏まえてどういった方法でなら入浴が可能となるのか(対処方法)を検討した上で,デイサービスという手段が出てくるものだと思います。頭の中ではこれらの検討はできているのに,アセスメントシートではまとめることができていない方が少なくないようです。


予後予測(改善の可能性,悪化の危険性)についての分析が不足している

 「アセスメントの展開方法」で述べたので,多くは述べませんが,予後予測はニーズや目標を導くための根拠となる重要な作業です。そういった意味でも,予後予測なくしてニーズや目標は生まれないように思います。


アセスメントとケアプランのニーズとのつながりが見えない

 厚生労働省令38号第13条に,「介護支援専門員は,居宅サービス計画の作成開始にあたっては,適切な方法により,利用者が抱える問題点を明らかにし,利用者が自立した生活を営むことができるように支援する上で解決すべき課題を把握しなければならない」ことが示されています。
 しかしながら,現状のアセスメントは支援の必要性は理解できたとしても,どのようにしてニーズが導かれたのかが分からない内容となっていることが少なくありません。
 さまざまな書籍や実際の課題分析(まとめ)を見ていても,分析内容が「○○の必要がある」「○○のサービスを提案する」等の表記のみとなっており,居宅サービス計画書(2)の生活全般の解決すべき課題(ニーズ)に記載されている「○○したい」との整合性が持てていない状況です。
 おそらくその理由は,「○○が必要」という専門職が考えるニーズ(ノーマティブニーズ)で分析がとどまっており,その後に行うべき「5)利用者・家族の意向とのすり合わせ」と,すり合わされた結果の「6)合意されたニーズ(リアルニーズ)」が,課題分析表に記載されていないことが原因だと考えられます。


事例でアセスメントを理解しよう

 課題分析標準項目(資料)を活用して,Yさん(女性)の事例を紹介していきます。資料では,現状を中心に記述しています。
 次に示す「課題整理」は,前述したアセスメント(課題分析)の展開方法「プロセス2-分析」に沿ってまとめています。P.48では,合意されたニーズ(リアルニーズ)を導くまでとしていますが,課題整理ではその後に立案する長期目標・短期目標までを記述しています。
 この事例を通じて,アセスメント(課題分析)の展開方法の理解を深めていただきたいと思います。

課題整理

本人の意向・自立目標
・ 脚力をつけて,近所に買い物に行けるようになりたい。
・ 新しい土地に慣れて人との交流を広げることで,物忘れを予防したい。


生活障害1:服薬が遵守できておらず,立ち上がり時のふらつきなどの循環動態が不安定である。

原因・背景:1999年ごろより不整脈が見られ,2009年に発作性心房細動の診断を受けている。
2008年に脳梗塞を発症し,構音障害や口唇の痺れが見られたが,現在は回復している。
心房細動や不整脈があるので,起居動作時のふらつきが見られる。
脳梗塞再発予防のために服薬管理は重要だが,物忘れによる薬の飲み忘れやまとめ飲みが見られる。

予後予測:心房細動や不整脈があり,2008年に脳梗塞を発症した既往もあるため,再発の危険性がある。
家族が通院の付き添いを行うことで,定期受診が継続でき,病態に合わせた治療を受けることができる。 内服の頻度や量を主治医に相談することで,管理しやすくなる可能性がある。
家族がテーブルに薬箱を用意して朝昼1回分ずつ分けておき,服用時間に連絡を入れることで服用できる可能性がある。

ケアマネジャーの生活ニーズ:通院を継続して内服を遵守することで,脳梗塞の再発や起居動作時のふらつきが予防できる。

本人の意向:脳梗塞にはなりたくないし,立ち上がり時のふらつきがなくなったら歩きやすくなるので,きちんと薬は飲もうと思う。

家族の意向:入院せずに元気で過ごしてほしいので,受診や内服管理の支援はこれからも継続する。合意した生活ニーズ:脳梗塞の再発を予防して,健康な状態で生活したい。

長期目標:受診と服薬を継続して,安定した体調で過ごすことができます。
短期目標:指示どおりに内服して,立ち上がり時のふらつきが軽減します。


生活障害2:起居動作時のふらつきがあり,転倒のリスクが高い。

原因・背景:脳梗塞による後遺症はほとんどないが,心房細動や不整脈があるため,循環動態が不安定で立ち上がりなどの起居動作時にふらつきがある。
娘の自宅へ引っ越したことで,土地勘がなく外出を控えているため,筋力が低下している。
円背のため歩行が緩慢になり,視界も狭い。
自宅周囲が緩やかな坂道になっているため,現在の歩行能力では一人で外出することはできない。

予後予測:服薬により循環動態を安定させることで,起居動作時のふらつきが軽減できる可能性がある。 閉じこもりがちな生活をしていることで,ますます筋力低下が進行する危険性がある。
円背により下肢の挙上が困難であり,視界も狭いため,転倒などの事故につながる危険性がある。
階段や坂道など,買い物ルートを想定した専門家による機能訓練や移動手段(杖・歩行器など)のアドバイスを受けることで,歩行が安定する可能性がある。
起居動作や歩行練習を行い,活動性を向上させることで循環動態の改善が期待できる。
機能訓練や自宅での活動に積極的に取り組むことで,歩行に自信が持てるようになる。
買い物ができるようになることで,生活意欲の向上や金銭管理への関心が増すことが期待できる。
楽しみや目的があれば,家族の付き添いの下,安心して外出することができる。

ケアマネジャーの生活ニーズ:病気の安定や機能訓練により,ふらつきの軽減や筋力低下の予防ができ,外出範囲を拡大していくことができる。

本人の意向:土地勘を身につけて,一人で近くの店に買い物に行きたい。
家族の意向:機能訓練をすることで,しっかり歩けるようになってほしい。

合意した生活ニーズ:しっかり歩けるようになって,一人で近くの店に買い物に行けるようになりたい。

長期目標:一人で近所の店まで,買い物に行けるようになります。
短期目標:週1回家族の付き添いの下,近所の店まで買い物に行けるようになります。


生活障害3:閉じこもり状態で,物忘れの進行が見られる。

原因・背景:引っ越しにより環境が変わり,以前の交友関係が途絶えてしまっている。
また,なじみのない地域で新しい友人関係がつくれていない。
軽度の難聴があるため,静かな環境での通常会話には支障がないが,賑やかな環境では聞き取りが困難。
自宅ではボーッとしていることが多く,物忘れや理解力の低下も見られる。
書道は得意だったが,最近は全く行っていない。

予後予測:外出機会の減少により,心身機能の低下が進行する危険性がある。
認知機能が低下すれば家族の介護負担やストレスが大きくなり,家族関係の悪化につながる危険性がある。
得意な書道を目的に外出機会を増やしてコミュニケーションを広げ,刺激のある生活を送ることで, 認知機能や意欲の低下を予防できる可能性がある。
書道を通じて役割を持つことで,生きがいや楽しみを持つことができる。
地域のいきいきサロンに参加することで,近隣でなじみの関係をつくることができる。
聴力の低下はあるが,ある程度聞こえている。
周囲の音がうるさい場面では配慮することで,疎外感を味わうことなく参加することができる。

ケアマネジャーの生活ニーズ:書道を通じて社会交流の機会を持ち,楽しみのある生活を送ることで,物忘れの進行を予防することができる。

本人の意向:新しい場所に出ていくのは勇気がいるが,元気になるために頑張ろうと思う。好きな書道ができるところなら参加しやすい。

家族の意向:物忘れの進行を予防して,生き生きと暮らしてほしい。
合意した生活ニーズ:得意だった書道を楽しみ,新しい友人をつくりたい。

長 期目標:書き初めで満足のいく作品を仕上げて,施設のロビーに展示することができます。
短 期目標:デイケアで得意な書道を披露することができます。


生活障害4::両耳の後ろ側にただれがある。

原因・背景:自宅にて一人で入浴しているが,耳の裏側や足など細かい部分に対する意識が薄く,洗ったり清拭したりする動作が獲得できていないため,十分に洗えず不衛生になっている。

予後予測:入浴時に,耳や足などの細かな部分を介助者が丁寧に洗うことで衛生状態が保たれ,耳のただれが改善する可能性がある。 細かな部分の洗浄や清拭を意識するよう本人に促し,洗身動作や工夫点を指導することによって,自己にて清潔が保たれる可能性がある。
入浴後,消毒や薬剤の塗布などの処置を行うことで,治癒が促進できる可能性がある。
専門医(皮膚科)に受診して,適切な治療を受けることができる。
処方された薬剤を指示どおり使用することで,早期の治癒が期待できる。

ケアマネジャーの生活ニーズ:細かな部分の清潔が保てるようになることで,耳のただれが治癒する。

本人の意向:あまり気にはしていないが,治したいとは思う。

家族の意向:家族が入浴や清拭の介助を頻回に行うのは大変なので,入浴サービスを利用して清潔な状態を保ってほしい。
合意した生活ニーズ:入浴時の洗い残しをなくし,耳のただれを改善したい。

長期目標:耳のただれが完治します。
短期目標:入浴時の洗い残しや拭き残しがなくなります。


まとめ

 今回紹介した課題分析の展開は,MDS-HC方式では「CAP検討用紙」,居宅サービス計画ガイドラインにおいては「全体のまとめ」,三団体ケアプラン策定研究会方式では「ケアチェック要約表」,その他の方式では「別紙」でまとめるなどの活用をしている方もいます。
 方式ごとに記載する上でのルールが存在するかもしれませんが,アセスメントは利用者の望む暮らしに向けて,支援の方向性を検討していくためのツール(道具)であることを踏まえれば,自分自身が使いやすいように工夫して活用するのもよいのではないかと考えます。
 困っている現状を羅列したアセスメント表から,居宅サービス計画書の根拠を導く,活きたアセスメント表へと転換していくのも,ケアマネジャーのスキル(技術)だと思います。
 まずは,一人の利用者のアセスメントから変えていきませんか?


出典:達人ケアマネvol4. no5 2010年8-9月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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著者の関連書籍
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