特定非営利活動法人 コミュニティ・ケア・ネットいずみ
代表理事:森田靖久


   

はじめに

 言うまでもなく,ケアプランは利用者・家族を含むケアチームが目指す「将来への羅針盤」であり,その主人公は利用者本人です。しかし残念なことに,現状のケアプランでは「自立することに向けての主人公である利用者」が存在していないのが実情です。
 例えば,第2表の長期目標・短期目標は,主人公である利用者が「○○できる」「○○できるようになる」といった「利用者本人の将来像」が設定されるべきところですが,「○○というケアをする」「○○を発見し対応する」などの「援助者側の目標」となっていることが少なくありません。援助者側の目標設定になってしまうと,利用者の目標は「ケアを受けること」となってしまい,本人の「自立に向けての意欲」はわきません。
 また,第2表のサービス種別では,サポーターである援助者しか登場しないケアプランが少なくありません。主役である利用者が自立に向けて自ら積極的に取り組んでいくためには,サービス種別に「利用者本人」を,サービス内容に「利用者が取り組むこと,努力すること」を位置づける必要があります。利用者の「私は○○に取り組む」「私は○○を頑張る」という言葉を引き出し,「では『○○さんが頑張ること』をプランに入れておきますね」「○○さんのお名前(本人)を計画書に記載しますね」「スタッフもできるように応援しますね」という会話をたくさん行っていただけたらと思います。
 このような会話(コミュニケーション)を通じたプラン作成が,利用者の自立に向けての第一歩につながるのではないでしょうか。そう考えると,計画書の表記としては「サービス種別」というよりも「実行者」あるいは「実施者」とする方がよいのかもしれません。
 今回から3回にわたって,ケアプラン原案作成過程での陥りやすい傾向を知り,あるべき記載方法についての理解を深めていただきたいと思います。

ケアプラン原案作成

 ケアプラン原案作成とは,「居宅サービス計画書(1)(2)」,および「週間スケジュール」作成までを行うことです。
 この過程では,アセスメント(課題分析)で検討した内容をケアプランに反映させる必要があります。課題分析方式によっては,生活全般の解決すべき課題(ニーズ)や目標をアセスメント段階で導くようになっている場合もありますが,大抵の場合はアセスメント結果を参考に,ケアプラン原案作成の段階でニーズや目標,具体的なサービス内容を考えることが必要となっています。
 ケアプラン原案はサービス担当者会議を行う前の暫定的な計画書ですが,できる限り大幅な変更がないように,事前に利用者・家族,各担当者の意見を集約して作成しておきたいものです。
 ケアプランが絵に描いた餅とならないようにするためには,利用者・家族を含むケアチームからの意見を反映したケアプランづくりが必要不可欠となります。

ケアプラン原案作成の流れ

(1)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(1)の「利用者及び家族の生活に対する意向」を記入します。

 利用者・家族が「どのようなサービスやケアを望んでいるのか」ではなく,「どのような生活を送りたいのか」を確認して記入します。

(2)被保険者証を基に,居宅サービス計画書(1)の「利用者の基本情報」「認定審査会意見等」を記入します。

 認定審査会意見がない場合は「なし」と記入します。認定期間の理由が書かれていないかを再チェックしましょう。

(3)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(2)の「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」を記入します。

 ニーズは利用者の「困っている状況」で設定せず,「望む暮らし」で設定しましょう。また,ニーズ
は優先順位が高いものから記入していきましょう。

(4)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(2)の「長期目標(目標の期間を含む)」を記入します。

 長期目標はニーズごとに設定されるものです。利用者・家族を含むケアチームで「○カ月後の姿(状態像)」をイメージして設定していきましょう。期間は開始日と終了日をしっかり記入するとよいでしょう。

(5)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(2)の「短期目標(目標の期間を含む)」を記入します。

 短期目標は,階段で例えると「ニーズや長期目標に向けての最初のステップ」です。短い期間で到達可能な利用者の姿(状態像)を,ケアチームで話し合って設定しましょう。期間は開始日と終了日をしっかり記入しましょう。

(6)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(2)の「サービス内容」を記入します。

 ケアチーム各員が目標達成に向けて「どのような取り組みを行うのか」を記載します。そこには,「利用者自身が取り組むことや努力すること」も当然含まれてきます。それぞれの役割が明確化されるよう,具体的に書くようにしましょう。

(7)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(2)の「サービス種別」「※1・2」「頻度」「期間」を記入します。

 この項目は,サービス内容について,「誰が」「どのぐらいの頻度で」「いつからいつまで」行うのかを理解できるようにするものです。利用者本人が行う取り組みをサービス内容に位置づけた場合,「サービス種別」「※2」欄の記載は「本人」となります。期間は「短期目標の期間と連動すること」を忘れないようにしましょう。

(8)アセスメント結果を基に,居宅サービス計画書(1)の「総合的な援助の方針」を記入します。

 総合的な援助の方針は,ケアチームの羅針盤となるものです。そのためには,居宅サービス計画書(2)の長期目標を総合化した内容にする必要があります。また,想定されるリスクを基に,緊急時にどのような対応を行うのかを記載しておくことが求められます。

(9)居宅サービス計画書(2)を基に,「週間サービス計画書」を記入します。

 週間サービス計画書は,利用者にとって「大まかな生活の流れ」を把握できる帳票です。利用者・家族にとって理解しやすいものとするためには,「主な日常生活上の活動」と「日曜から月曜日までの社会資源」の内容とが比例し,「週単位以外のサービス」がしっかり記載されたものでなければなりません。

(10)「居宅サービス計画書(1)」「居宅サービス計画書(2)」「週間サービス計画書」をベースに,サービス担当者会議を開催します。利用者・家族を含むケアチームの合意と同意を得て,ケアプラン交付となります。

 サービス担当者会議は,ケアプラン原案を中心に置いて進行していきましょう。
 会議は,方向性や役割分担を明確化させるためだけのものではありません。ケアチーム各員が,「よし! 頑張っていこう」となる会議にしていくことが必要です。会議が,ケアチームにとってモチベーションの維持や向上につながる機会となるようにしていきましょう。

ケアプラン作成の留意点 〜よくあるケアプランの傾向

 これまで数多くのケアプランを見てきて,次に挙げるような傾向があることに気づきました。


第2表:問題状況をそのままニーズとして記載している

 「○○できない」や「○○で困っている」といったニーズを見ることが少なくありません。「○○で困っている」の背景には,「(△△をしたいのだけれど,××の状態・状況となっているため,)○○できずに困っている」という状況があることも考えられます。ここで必要なことは,困り事をそのままニーズとしてとらえず,利用者の潜在した思いをくみ取った上でニーズを検討することです。また,ニーズは利用者自身が前向きに取り組むことができる内容で設定することも必要となります。


第2表:ニーズを充足するための適切な長期目標と期間の設定となっていない

 ニーズと長期目標の方向性が共通せずに乖離している状況や,レベルがかけ離れ過ぎているケアプランと遭遇することがあります。言うまでもなく,長期目標はニーズに向けての到達点であることを再認識して設定することが必要です。
 期間については,一律に認定期間で設定せず,長期目標の状態像から期間を考えて設定します。利用者・家族を含むケアチームがイメージできる姿(内容)で目標を設定しましょう。


第2表:短期目標の内容や期間が長期目標と全く同じ内容になっている

 目標を「走ること」で例えるならば,長期目標は42.195kmのフルマラソン,短期目標は100メートル走といった感じでしょうか。短期・長期目標の内容や期間が全く同じというのは,フルマラソンと100メートル走の内容や距離が同じと言っているようなものです。
 短期目標を設定する際には,利用者が「まずやってみよう」と思える内容や,「あまり気が進まなかったけど,必要なことなんだな」と理解できる内容で考えてみるとよいでしょう。


第2表:短期目標の抽象度が高く,達成の有無を評価できない

 短期目標は達成可能なレベルで具体的に設定することが必要です。利用者・家族が目標の到達レベルを実感し,「引き続き,明日からも頑張っていこう」「目標までもう少しなんだな」と思える内容にするとよいでしょう。
 抽象度が高い目標とは,漠然とした状態像で設定されており,達成の有無を評価できない(できにくい)目標のことです。
 約10年前から言っていることですが,「安心」「安全」「維持」「向上」「安定」「安楽」「継続」「軽減」「楽しむ」「過ごす」「保つ」といった言葉が,目標の抽象度を高くさせています(漠然とした状態像を生んでいます)。
 抽象的な目標から評価が可能な目標(具体的な目標)へと転換させることで,利用者・家族を含むケアチームのモチベーションは大きく変わってきます。その鍵は,目標を「数値化(距離,時間,回数など)」させることです。
 目標設定については,本連載のモニタリング編でも詳しく述べていく予定です。


第2表:サービス内容が,目標を達成するための具体的な支援内容として記載されていない

 詳しくは次号で述べますが,サービス内容について,利用者・家族が具体的な内容を理解できるようにすることが必要です。また,評価時に,サービス(ケア)内容が適切であったのかを判断するためには,具体的な支援内容で記述していることが必要となります。
 サービス内容は「大まかなケアの内容でよい」という考えもあるようですが,金太郎飴のような万人に通用するプランではなく,具体的なケア内容が盛り込まれた「個別性のあるケアプラン」づくりを目指したいものです。


第2表:サービス内容に本人のセルフケア,家族の役割,介護保険外サービス,インフォーマルな社会資源などが記載されていない

 ケアプランの主人公が利用者であるならば,利用者本人が登場しない脚本やストーリーは考えにくいものです。
 私たち専門職の仕事は,利用者が目標に向けて,「取り組むこと」や「努力すること」を引き出しケアプランのサービス内容に反映させること,そして,引き出したことを継続できるようにサポートしていくことではないでしょうか。
 保健・医療・福祉サービスを活用しているにもかかわらず,ケアプランに位置づけられていないケースが少なくありません。特に,緊急通報システムや電磁調理器貸与,おむつ助成金,配食などの福祉サービスが位置づけられていないことが多いように感じています。目的があって福祉サービスを活用しているのであれば,ケアプランに反映されるべきではないでしょうか。


第3表:医療ニーズが高い利用者であっても,医療サービスが位置づけられていない

 定期受診や往診,医療の訪問看護の内容が記載されていないことが少なくないように感じています。ケアプランは,医療機関と共通認識を持つことや,連携を図っていくための手段と再認識し,「サービス内容」や「サービス種別」「※2」にしっかりと位置づけるようにしましょう。


第3表:「主な日常生活上の活動」に利用者や主な介護者の生活リズムが記載されていない。「主な日常生活上の活動」を考慮したサービスの頻度やスケジュールになっていない

 「主な日常生活上の活動」欄には,利用者だけでなく主な介護者の生活リズムを把握し,記載することが必要です。
 利用者の排泄リズムを把握し,この欄に記載することで,ケアチームが排泄誘導を行うための目安にすることができます。また,主な介護者が就労している場合には,何時ごろに家を出て,何時ごろに帰宅するのかが記載されていると,ケアチーム間で利用者が日中1人で過ごす時間帯の共通認識が持て,必要なケアを検討し対応することへとつなげられます。


第3表:「週単位以外のサービス」に,短期入所や住宅改修,福祉用具貸与,通院状況などの情報が記載されていない

 週単位以外のサービス欄が空欄となっていることが少なくありません。利用者・家族を含むケアチームが活用する社会資源についての共通認識を持つためには,週単位以外のサービスの漏れをなくしていくことが必要です。
 基本的には,第3表の週間スケジュールの社会資源と第2表のサービス種別とは比例するもの,と理解してみてはいかがでしょうか。


第1表:「利用者及び家族」の意向ではなく,利用したい介護サービスが列挙されている

 「利用者及び家族の生活に対する意向」欄で,利用者本人の意向として「デイサービスを続けたい」といった記載をよく見ます。この場合,デイサービスを活用してどうなりたいのか,どのように生活していきたいのかを引き出すことが必要です。利用者・家族に生活のイメージを持てるように働きかけていくことが必要ではないでしょうか。


第1表:「総合的な援助の方針」は長期目標を総合化した内容となっていない

 第1表は「全体の方向性を示す帳票」と言われています。総合的な援助の方針は,利用者・家族を含むケアチームが目指す方向性が集約されたものです。そのため,方針には第2表の長期目標の総合化が必要となります。
 再点検の意味で,長期目標のキーワードやエッセンスが総合的な援助の方針に盛り込まれているかどうかを確認してみてください。

 次回は,ケアプラン原案作成「記載のポイント」について説明していきたいと思います。

 

引用・参考文献
1)森田靖久:居宅版ポジティヴプラン作成ガイド,日総研出版,2004.
2)森田靖久:ケアプランが活きる介護を求めて,おはよう21,Vol.16,No.9,P.12 〜21,2005.
3)長寿社会開発センター:居宅サービス計画書作成の手引,長寿社会開発センター,2006.
4)ケアプラン点検支援マニュアル,介護保険最新情報,Vol.38,2008.
5)コミュニティ・ケア・ネットいずみ:ケアマネジメントセミナー資料,2009.
6)森田靖久,二宮佐和子:介護給付適正化 ケアプランチェックの視点に基づく適切な居宅サービス計画とアセスメント,日総研セミナー資料,2008.


出典:達人ケアマネvol4. no6 2010年10-11月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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著者の関連書籍
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