特定非営利活動法人 コミュニティ・ケア・ネットいずみ
代表理事:森田靖久


   

 前回は,ケアプランの原案作成の流れや留意点について述べました。今回は,「記載のポイント」について説明していきます。

 

ケアプラン原案作成―記載のポイント

 ケアマネジャーは,居宅サービス計画書が利用者の生活の質に直接影響する重要なものであることを十分に認識した上で,ケアプラン原案を作成しなければなりません。
 居宅サービス計画書原案には,利用者および家族が自宅でどのような生活を送ることを望んでいるのか,また,そのためにはどのようなケア(セルフケア含む)が必要なのかを明確にした上で,利用者・家族を含むケアチームが目指すべき目標と,それらを達成する時期などを明確に盛り込むことが必要となります。
 次に,ケアプラン〈居宅サービス計画書(1)・(2),週間サービス計画書〉を記載する上でのポイントを示します。

 

第1表 居宅サービス計画書(1)

利用者及び家族の生活に対する意向(資料1−(1))
 利用者及び家族が「どのような生活をしたい」と考えているかについて,課題分析の結果を記載します。この欄に「このまま(自宅で)暮らしたい」と書かれているプランを見ることがあります。利用者が言う「このまま」とはどのようなことなのでしょう? また,なぜこのままの暮らしがよいのでしょうか? 今以上の暮らしを望まない原因や背景についても,しっかりと考えることが必要です。そうすると,おのずと真の意味での意向が確認できるのではないでしょうか。
 また,家族の意向についても,「今までどおりにお願いします」などの記載が少なくありません。利用者本人の意向と同様,しっかり分析した上で,具体的に望む暮らしを記載できるようにすることが必要です。
 利用者と家族の意向が確認できたら,それぞれの意向を分けて記載することに留意し,意向の部分に「鍵括弧」をつけると分かりやすくなります。

介護認定審査会の意見及びサービスの種類の指定(資料1−(2))
 介護認定審査会で付与された意見をそのまま記載します。

総合的な援助の方針(資料1−(3))
 利用者及び家族を含むケアチームが目指す「共通の方針」を記載します。
 考え方としては,「利用者及び家族の生活に対する意向」を踏まえた上で,第2表(資料2)の「長期目標を総合化した内容」となるようにまとめる(書く)ことが重要です。1表→2表→3表の順で作成している方が少なくないようですが,この方法では,長期目標を総合化することが難しく,本当の意味での総合的な援助の方針にはなりません。
 総合的な援助の方針は,ケアマネジャー1人の考えや方向性を書くものではなく,「ケアチームとしての総合的な方針」を記載することに留意します。したがって,サービス担当者会議などで話し合われた内容が記載されるべきでしょう。
 文章表現は,利用者自身が積極的に取り組めることができるよう,分かりやすい言葉で書くことが重要です。ケアプラン全体に言えることですが,専門用語を使わないことや,表現に配慮することが必要です。法人内にだけ通用する言葉や,専門職にしか分からない言葉を,知らず知らずのうちに記載していないかを再確認しましょう。
 また,緊急事態を想定し,「連絡先」や「対応方法」についての明確な記載も必要です。最近のケアプランでは,緊急連絡先のみの記載が少なくありません。正しくは,利用者一人ひとりに対して,今後起こり得るリスクやサイン(前兆)について予測し,発生した際にどのような対応を取るのかをサービス担当者会議などで話し合い,合意したことを記載します。その対応方法の一つに,連絡先があるのです。

 


第2表 居宅サービス計画書(2)

生活全般の解決すべき課題(ニーズ)(資料2−(1))
 課題(ニーズ)とは,利用者が「問題状況を解決して,望ましい自立した生活をすること」です(望む暮らし)。問題状況とは,現状とあるべき姿とのギャップのことです。
 ニーズは利用者や家族と「合意」したことを設定し,優先度合いの高いものから順に記載します。「生命に関すること」「利用者が最も大切にしていること」「早期解決が見込まれること」「今後,利用者が取り組みを行う上で基礎・基盤となること」などのニーズは優先順位が高くなるものと考えます。
 ニーズは自立支援を目指す観点から,「○○したい」「○○できるようになりたい」というように,利用者自身が主体的・意欲的に取り組めるような書き方を基本とします。目的や方向性を明確にするため,「○○に取り組んで,○○できるようになりたい」や「○○を改善して,○○したい」と記載する方法も有効です。
 ただし,「○○したい」などの表現をしない,確認ができない利用者の場合もあります。表記方法のパターンとしていくつかを紹介しますが,言葉では表現できない(確認できない)利用者の場合は,ケアを受けている時の様子や,何かをしている時の表情などから読み取ることが必要です。さらには,ケアスタッフや家族などから利用者の状況を聞き取ることも必要となります。

課題表記方法のパターン

1. 原則:困った状況を解決して望む生活をしたい
  記載方法
  「○○したい」
  「○○できるようになりたい」
2. 直接,サービス(ケア)利用を口にする時には,
  その要因や背景を分析した上でニーズを判断します(背景要因を用いる場合もあります)

  記載方法
  「〜なので○○したい」
  例) 外を歩くことが不安なので,ヘルパーと一緒に買い物へ行きたい
3.困難さを全面的に訴える場合
  記載方法
  「〜であるが,○○できるようになりたい」
  「〜しないように生活したい」
  例) 転倒を減らし,骨折しないように生活したい
4. 本人の訴えがない,認知症や廃用性が進行して寝たきりなどの場合
  記載方法
  「○○の悪化が心配です」
  「 〜であるが,○○にならないようにしたい」
  「○○したいと判断した」など
5. 疾患の再発予防や処置など,医学的知識がないと理解しにくい課題がある場合
  記載方法
  「○○の悪化が心配です」
  「○○の再発予防が必要です」など


目標(資料2−(2))
 目標は援助した結果,「利用者がどうなるか」という具体的なイメージを持ちながら,利用者や家族と共に設定するものです。さらには,専門的な判断を踏まえると共に,本人も努力目標とするものです。
 しかしながら,現状は利用者や家族と一緒に目標を考えることができておらず,スタッフのみで目標を立案していることが少なくないようです。そのため,利用者は自分自身の努力目標と思わず,ケアプランが紙状のものになってしまっている状況も少なからずあるようです。
 「付き合いが長い利用者に今さら…」「業務が忙しくてそこまでは」という声が聞こえてきそうですが,まずはこれから出会う利用者1人からでよいので,一緒に目標を考えることから始めてみませんか? きっと,利用者やスタッフにやる気が芽生えてくるように思います。
 利用者と一緒に目標を考える上での留意点は,「実現可能な範囲で設定すること」です。利用者自身やスタッフが目標の達成状況を理解できる内容にすることが必要です。例えば,「安定した歩行ができる」というよりも,「自宅内を5m歩けるようになる」「寝室からトイレまで歩いていけるようになる」という目標の方が結果を判断しやすく,前向きに取り組めるのではないでしょうか。

長期目標(資料2−(3))
 長期目標は,ニーズに対するサービスを活用(提供)し,「短期目標を達成し続けた結果」,○カ月後には利用者が「どのような状態となっているか」という「将来予測」を示すものです。したがって,生活の中でできるようになることをイメージし,「○○できる」あるいは「○○できるようになる」と表記するとよいでしょう。

短期目標(資料2−(4))
 短期目標は,ニーズに対するサービスを活用(提供)した結果,○カ月後には「利用者がどのような状態となっているか」という「身近な将来予測」を示すものです。前述しましたが,短期目標はニーズや長期目標に向けた第一歩に位置づけられます。利用者や家族と共に生活の中で具体的にできるようになることをイメージし,「到達可能なレベル」で目標を設定しましょう。
 記載方法としては,「○○できる」「○○できるようになる」と表記するとよいでしょう。

目標(長期・短期目標)の期間(資料2−(5))
 目標の期間は「到達できる見込みの時期」を示すものです。言うまでもなく,目標の期間は「いつから」サービス内容を実施し,「いつまでに」目標が到達するかを示すものです。したがって,要介護認定期間を根拠に目標期間を定めるものではありません。あくまでも,利用者がどのような状態となっているかを予測し,到達できる時期を示すものとして設定することが必要となります。
 表記については,具体的な期間(平成○年○月○日〜平成○年○月○日)が特定できるようにした方がよいでしょう。

サービス内容(資料2−(6))
 サービス内容は,短期目標を達成するために担当者が実施する「具体的なケアやサポートの内容」で書くようにします。その際,利用者自身が「実施すること」と,ケアスタッフらがそれを「見守る」「声かけする」こととを区別して書くように留意します。
 「排泄介助」「食事介助」といった単語での記載を卒業し,ケアマネジャーがサービス内容を本人へ説明するように具体的に記述するようにします。できる限り,「メッセージ性の高いもの」として記述することで,利用者本人・家族も理解しやすくなります。おそらく,利用者・家族へケアプランを交付する際には,記載している内容に肉付けして,分かりやすく説明されていることと思います。この時の説明内容が「メッセージ性の高いもの」なのです。
 家族が行っているケアやサポート内容を,サービス内容に盛り込むことが重要です。そうすることで,モニタリング・評価時に,家族に対して「労をねぎらう」ことが可能となります。この行為によって,ケアマネジャーと家族,利用者本人と家族との良好な関係が構築(継続)できるのではないでしょうか。
 しかしながら,家族によっては,サービス内容に位置づけられることで負担に思う方もいますので,十分に配慮することが必要です。

サービス種別(資料2−(7))
 サービス内容に対応する社会資源がサービス種別です。ケアプランは目標に向けて,いつからいつまでに,どういったケアをどの社会資源が実施するのかを示したものであるならば,サービス種別は,「どの社会資源」の部分に該当します。
 ここでのポイントは,利用者ができることをサービス内容でしっかりと明記し,サービス種別に,利用者「本人」を位置づけることです。このことで,利用者のケアプランへの関心が高まり,自立に向けた出発点に立てるのです。

頻度(資料2−(8))
 頻度は,目標の達成状況やサービス内容のなじみ具合によって変わります。決して,要介護度や支給限度額から頻度が決定されるものではありません。利用者・家族を含むケアチームで話し合いを持ち,「ニーズや目標から適切な頻度を決める」といった視点が必要です。

期間(資料2−(9))
 ここでの期間は「短期目標の期間」と連動します。

 

第3表 週間スケジュール

 居宅サービス計画書(2)の援助内容のうち,週単位で行われるものは,その月の標準的なサービス計画を週単位で記入します。したがって,居宅サービス計画書(2)のサービス内容は基本的にすべて記入することになります。資料3に記載方法を示します。

 次回は,課題分析標準項目を用いたケアプラン原案の作成について説明していきたいと思います。

 

引用・参考文献
1)森田靖久:居宅版ポジティヴプラン作成ガイド,日総研出版,2004.
2)森田靖久:ケアプランが活きる介護を求めて,おはよう21,Vol.16,No.9,P.12 〜21,2005.
3)長寿社会開発センター:居宅サービス計画書作成の手引,長寿社会開発センター,2006.
4)ケアプラン点検支援マニュアル,介護保険最新情報,Vol.38,2008.
5)コミュニティ・ケア・ネットいずみ:ケアマネジメントセミナー資料,2009.
6)森田靖久,二宮佐和子:介護給付適正化 ケアプランチェックの視点に基づく適切な居宅サービス計画とアセスメント,日総研セミナー資料,2008.


出典:達人ケアマネvol5. no1 2010年12-1月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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著者の関連書籍
自立支援型ケアプラン立案のための判断根拠がわかる!思考プロセス
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