特定非営利活動法人 コミュニティ・ケア・ネットいずみ
代表理事:森田靖久


   

 今回まで,アセスメントおよびケアプラン作成についての基本視点を押さえつつ,ケアマネジャーの悩みとなっている「記載方法」や「まとめ方」についてお伝えしてきました。
 今回からは2回にわたり,モニタリングの基本視点と実際の記載方法について説明していきたいと思います。

 

ケアプランが機能しているかを検証し,利用者の生活に反映させる

 モニタリングとは,利用者の病状や障害の状況の変化,新たな生活ニーズが発生してきていないかどうか,また,サービス提供者などが当初のケアプランどおりに援助を提供しているかどうかを確認する作業です。
 モニタリングの記録様式としては,独自で作成したモニタリングシートを活用しているところや,厚生労働省が示す「居宅介護支援経過」を活用しているなど,事業所によってさまざまです。大切なのは,様式やまとめ方ではなく,ケアプランが有効に機能しているかを検証し,今後の利用者の生活に反映するための足掛かりをつくることです。

 

ケアプランを中心にモニタリングを行う

 モニタリングをケアマネジャー一人で実施している状況が少なくありません。利用者・家族を含むケアチームメンバーが積極的にモニタリングに参画することで,より充実したモニタリングを行うことができます。
 モニタリングを行う際には,必ずケアプランを中心に置いて行うことが必要です。なぜなら,ケアプランは利用者の望む暮らしに向けて,全関係者が向かうべきケアの方向性を示した共通の羅針盤だからです。万が一,皆が進む方向を見失ってしまうと,非効率で効果の上がらないケアとなり,悪循環をもたらすことになります。そういった意味でも,ケアプランは大変重要な意味を持ちます。

 

具体的な目標設定によるモニタリングがケアプランを活かす鍵

 ケアプランを作ったが,実際のサービス内容と異なり,ケアプランが紙面上のものとなっている状況は少なくないのではないでしょうか。その理由として,現場で働くケアチームメンバーがケアプランを知らないことや興味のあるものとしてとらえていないこと,利用者がケアプランに興味や関心がないことが考えられます。何より,いつまでたっても達成できない目標を設定していることが,「理想論」「形骸化」と言われる所以であり,利用者はもとよりスタッフさえもケアプランへの関心をなくす一番の要因となっているのではないでしょうか。
 当然,その結果,「モニタリングへの意識が希薄化するという悪循環」が生まれているのではないかと考えます(図1)。

 この悪循環を断ち切り,好循環に変えるための“鍵”は「具体的な目標設定」にあります。具体的な目標設定にすると,ケアプランの目標が達成するという結果が生まれてきます。目標が達成すると,利用者はもちろんのこと,ケアスタッフの意識や意欲にも影響し,利用者は「よし頑張ろう」,スタッフは「楽しい,おもしろい」というふうになってきます。さらには,モニタリング時期や結果を意識するようになってきます。利用者から前向きに取り組んでいこうとする言葉や,モニタリングを意識した言葉(「そろそろモニタリングの時期ではないですか?」など)が聴けるようになれば,その時はすでに好循環が生まれているのです。
 利用者はもちろんのこと,ケアスタッフもこのような成功体験をたくさん積み重ね,自信を獲得することが必要です。
 「目標設定の考え方」について,図2を基に解説します。

 人(利用者)は,日常生活でさまざまな困難がありながらも,「望む暮らし(ニーズ)」に向けての階段を昇っていきます。長期目標は「ニーズと同じ高さ」,あるいは「その少し下の階段」をイメージし,「短期目標」は望む暮らし(ニーズ)や長期目標に向けての「第一歩目(段目)」に位置付けられるのです。
 私たち専門職は,利用者が「望む暮らし」に向けて階段を昇ることの「サポート(ケア)」を行うのです。決して,利用者は援助者側の目標に向かって階段を昇るのではありません。また,長期目標と短期目標が同じレベル(高さ)の内容ではないということを再認識していただけたらと思います。
 次に,具体的な目標設定の方法について表1を基に解説します。

 現状のケアプラン記載例の目標「安心して歩行できる」の場合,どのようにして目標の達成度を判断すればよいのでしょうか。
 一方,今後のケアプラン記載例の目標「自宅から杖を使って一人でたばこ屋へ行くことができるようになる」であれば,(1)杖を使ったのか,使っていないのか,(2)一人で行くことができたのか,介助があって行くことができたのか,(3)たばこ屋へ行くことができたのかという3つの判断材料があります。仮に,たばこ屋へ行くことができなかったとしても,途中にある八百屋までは行くことができたなど,目標の進捗状況が確認でき,評価もしやすくなります。
 モニタリングする上では,目標を可能な限り具体化,数値化(距離,時間,回数,場所)することが評価する上でのポイントとなります(図3)。

 ケアプランの目標は,「安心」「安全」「維持」「向上」といった,いつまでも継続・更新し続けることができる表現ではなく,利用者・家族を含むケアチームが目標達成したことを喜ぶことができる,評価できる内容へと変更していくことが必要です。

 

モニタリングすべき項目と視点

 モニタリング結果は,居宅介護支援経過に記録するのが一般的ですが,事業所独自にモニタリングシート(表2)を作成して活用しているところも少なくないようです。
 モニタリング結果は,ケアプランのニーズごとにモニタリングの要素(表3)を満たすように記録します。次に,モニタリングに必要な要素(5項目)について説明します。


(1)「ケアプランどおり適切にサービス提供できたか」どうかをニーズごとに確認する。
 この項目は,単にサービス実施の有無を確認するだけのものではありません。当然,サービスの実施回数が少ない結果となった場合は,なぜそうなったのかを分析し,内容や頻度について再検討することが必要となります。さらには,ニーズの充足度や目標達成に向けたサービス(ケア)として適正かどうかを,ほかの方法も含めて検討することが必要となります。

(2)「短期目標が達成し,長期目標に近付きつつあるか」を目標ごとに確認する。
 この項目は,すべての目標の達成度を確認することになります。目標が具体的な内容でなければ,達成状況(現在の到達点)が分かりにくいのは言うまでもありません。
 モニタリングにおいては,目標のレベルや達成時期の予測について,適切であったかどうかを確認します。もし,目標のレベルが高過ぎた場合は,今後のケアプランで修正することが必要となります。
 目標が達成している場合は,次の目標について検討し,「今後は○○ができる」など,目指す方向性を記述するとよいでしょう。

(3)「本人・家族はサービス内容や現状に満足しているか」をニーズごとに確認する。
 この項目では,利用者自身や家族が今の生活や居宅サービス計画の提供状況に対して,「何を思い,感じ,考えているのか」などを,コミュニケーションを通じて確認します。意思疎通が難しい利用者の場合は,ケアを受けている時の様子や何かをしている時の表情などからくみ取ることが必要となります。さらには,家族やケアスタッフの意見を基に判断することも必要となります。

(4)ケアマネジャーの活動は目標達成のために適切であったか(活動評価)をニーズごとに確認する。
 この項目では,ニーズの充足や目標達成に向けて,ケアマネジャーが連絡・調整したこと,調整すべきだったことなどをまとめます。このことは,単に現在までのマネジメントを検証するためだけのものでなく,今後の活きたケアプランへの道筋を付けることにもつながるのです。

(5)「新たな課題は生じていないか」では,ケアプランで位置付けている生活全般の解決すべき課題(ニーズ)以外の課題が発生していないかを確認する。
 この項目では,ケアプランに位置付けていない新たなニーズが出てきた場合は,モニタリング記録にその背景や状況をまとめ,必要に応じて再アセスメントを行うことになります。新たな課題がない場合は,モニタリング記録に「新たな課題はなし」と記述することが必要です。

 

 これらの項目について検討した後,最終的にケアプランを修正します。
 (1)〜(5)の項目を個条書きでまとめていくと手早く記載でき,ほかのケアチームメンバーなどが見た場合も分かりやすいものとなります。



出典:達人ケアマネvol5. no3 2011年4-5月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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著者の関連書籍
自立支援型ケアプラン立案のための判断根拠がわかる!思考プロセス
A4判 240頁 定価4,260円+税
 

 

 

 

 


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