特定非営利活動法人 コミュニティ・ケア・ネットいずみ
代表理事:森田靖久


   

 前回は,モニタリングの基本的な視点についてお伝えしました。今回は,モニタリング項目を活用した記載例と,モニタリングする上での工夫点について述べていきます。

 

事例概要

 Mさん,男性,83歳。1人暮らし

 

相談に至る経路

 2〜3カ月前に自宅内で転倒して以来,膝の痛みが強くなり,歩行や生活に支障を感じてきたが,息子の仕事が忙しく,見守りや支援ができないため,介護保険を申請した。

 

現在の状況

■家族状況
・妻とは26年前に死別。
・長男(54歳)は独身。自営業をしているので,頻回に様子を見に来られない。
・長女はW県に家族と暮らしており,盆・正月に家族で会いに来る程度。
■要介護度:要介護1
■現病歴など:両膝関節症,両耳難聴
・風邪を引いた時のみ,近所のH内科に受診している。
・整形外科の受診を勧めるが,妻が整形外科の誤診と医療ミスで死亡したと思っており,
 不信感を持っているため,受診していない。
・補聴器を所持しているが,「すぐに外れてしまうし,雑音がうるさい」
 「雑音を拾って頭が痛くなる」などの理由で装着していない。
■ADL
〈調理〉握力が低下しているため,皮を剥く,細かく刻む,硬い物を切るなどの作業は困難。
    火の不始末が目立ってきている。
〈掃除〉膝痛のため,床拭きや掃除機掛けなどの,足腰に負担の掛かる作業が難しい。
    そのため,読み終わった新聞や脱いだ衣服が整理できておらず,
    それらにつまずいて転倒する危険性がある。
〈洗濯〉洗濯竿の位置が高いため,背伸びをして干しており,バランスを崩して転倒しやすい。
〈買い物〉近くに商店街があり,1人で買い物に行くが,膝痛のため歩行が不安定で,
     重たい荷物を持つとバランスを崩して転倒しやすい。
■住居
・一戸建てで持ち家。築40年になるので,あちらこちらが老朽化している。
・居室,台所,トイレ,風呂,洗面所などは1階にあり,主に1階で生活している。
■経済状況
・厚生年金を受給しており,経済的には不自由していない。
■生活歴
・約40年前に現在の家を購入。
・定年まで大阪市内の銀行に勤め,退職後は家事一切を担ってきた。
・元気なころは自治会の役員をしており,町内では顔が広い。
■本人の思いと生活状況
・買い物,炊事,掃除,洗濯を長年1人で担っており,
 「家事は自分の役割」という意識が強く,まだまだ自分でやっていきたいと考えている。
・長男は仕事が忙しく,親子の会話が少ないことを寂しく思っている。
・最近,膝の痛みが強くなってきたので,1人で買い物に行くことが困難になり,
 掃除も行き届かなくなってきている。
■長男の思い
・父親のことを気に掛けているが,仕事が忙しく,様子を見に行くことができていない。
 休日は土曜日だけで,時々父親と一緒に買い物や外食に行っている。
・家のことを自分でしようという気持ちが強いが,無理をし過ぎて,
 転倒や火の不始末が起こらないか心配。
・寝たきりになってほしくないので,できることを続けられるように支援してほしい。

 

 Mさんの基本情報(フェースシート),居宅サービス計画書(1)・(2),週間サービス計画表,居宅介護支援経過記録は,資料1〜5のとおりです。

 


 

 

 

 

 

モニタリングする上での工夫点

 筆者が講演活動や介護給付適正化事業(指導者)を通じて把握した,現場における「モニタリングする上での工夫点」について紹介します。様式については,居宅介護支援経過や事業所独自で作成したものなど,事業所によってさまざまです。
 工夫点は,大きく分けると次の4点あります。

 

様式面での工夫

(1)独自で様式を作成
 モニタリングシートを独自で作っている事業所は,長寿社会開発センターから出版されている『介護支援専門員実務研修テキスト』1)で示されているモニタリング項目を参考にしていることが多いようです。中には,モニタリングシートが適切か否かを都道府県や市町村保険者へ確認している事業所もありました。
〈留意点〉
 モニタリングシートが「○」「×」でチェックするだけの様式となっている場合,判断した根拠が分からず,今後の方向性を見いだしにくくなります。これでは,モニタリングが機能せず,意味のないものとなってしまいます。言うまでもなく,モニタリングは現状のプランと次のプランとの架け橋とならなければなりません。
(2)サービス事業者などからの報告書を生かす
 最近,毎月,サービス事業者から文書で報告を受け取る事業所が増えています。あらかじめ,居宅介護支援事業所側からサービス事業者に対して,報告してもらいたい内容を伝えておき,モニタリングに生かしているようです。
〈留意点〉
 通所系サービスの場合,「レクリエーションを楽しんでおられました」「気持ちよく入浴されていました」などの報告が少なくありません。もちろん,こういった情報も必要ですが,居宅サービス計画書にある目標の達成状況や,具体的なサービス実施状況(アプローチ方法含む),目標やサービスに対する利用者の満足度など,今後の方向性を検討する上で必要となる情報を共有できるようにすることが必要ではないでしょうか。

 

プラン面での工夫

(1)第2表:生活全般の解決すべき課題(ニーズ)のグループ化
 モニタリングで得た情報は,必要となる項目を押さえながら,ニーズごとにまとめていきます。細分化されたニーズがたくさんある場合は,必然的にモニタリングすべき量が増えることになります。ニーズの背景や方向性が同じ,または近い内容である場合は,ニーズをグループ化(統合)することで業務の効率化を図ることができます。
〈留意点〉
 ニーズを細分化し過ぎて同じケア内容があらゆるニーズに点在している場合は,プランを整理する意味で,グループ化するとよいでしょう。
 まれに,統合され過ぎているニーズ(例えば,家で暮らしたいなど)がありますが,その場合,目指すべき具体的な方向性が見えにくくなります。また,ほかのニーズも包括してしまう内容となるため,統合の仕方にも留意が必要です。
(2)目標の具体化(特に,短期目標)
 目標設定については本稿では詳しく述べませんが,モニタリング業務の効率化,ケアチームのモチベーション維持と向上を考えるならば,具体的な目標を設定することに尽きます。
〈留意点〉
 具体的な目標とは,「少し手を伸ばせば届くだろう」というレベルで,かつ「達成状況を判断できる」目標のことです。再度,利用者の状態像で設定できているか確認してみてください。

 

行動面での工夫

(1)モニタリング日程を決めて実施
 「毎月,第○週にモニタリングを実施」というように,月間レベルで予定を立てている人は少なくありません。
 また,日程を決めるだけではなく,モニタリングの実施について,利用者・家族,周りのスタッフに理解を得ている人もいました。
 利用者・家族にモニタリングの理解を得ることのメリットは,専門職側が尋ねたい内容について,焦点を絞った話ができるようになったこと。いつもは,利用者や家族の一方的な話に尽きる状況だったそうですが,モニタリングの日はケアプランに基づいて決まった項目を一緒に確認していく日という認識を持ってもらえ,業務の効率化と前向きな議論ができるようになったそうです。
 さらに,周りのスタッフにモニタリングの重要性を理解してもらうことで,モニタリングに集中する時間を得ることができ,他業務でフォローが得られるようになったそうです。
〈留意点〉
 言うまでもなく,モニタリングは1人で行うものではありません。上述の内容は,ケアチームで合意するまでのモニタリング(案)の段階です。
(2)モニタリングを兼ねたサービス担当者会議を実施
 利用者の状態や状況,その時に起こっている問題や課題をテーマにサービス担当者会議を行っていることが少なくないように思います。当然,ケアチームのメンバーが課題や対応方法について共通認識を持つことは重要です。共通認識を持つためには,ケアプランを中心とした会議,つまり,モニタリングを兼ねた会議の開催が必要です。昨今では,モニタリング・評価,再アセスメントの内容を,サービス担当者会議で話し合って決めているところが少しずつ増えてきています。
〈留意点〉
 スタッフ中心のメンバーで会議を行うと,利用者の考えや思いが反映されない状況が生まれてくることがあります。本人がサービス担当者会議へ出席する場合はもちろんのこと,出席しない場合においても,利用者の立場に立った検討をしていかなければなりません。

 

 本連載では,ケアマネジメント過程ごとの基本視点を押さえつつ,ケアマネジャーの悩みとなっている「記載方法」や「まとめ方」をお伝えしてきました。また,モニタリングで陥りやすい傾向や現場での工夫点についても,紙幅の許す限りお伝えしてきたつもりです。
 これまでの連載でお伝えしてきた内容をすべてのケースで行う…と考えるとしんどくなりますので,まずは,1つのケースからはじめていきませんか。

 

引用・参考文献
1)森田靖久:居宅版ポジティヴプラン作成ガイド,日総研出版,2004.
2)森田靖久:ケアプランが活きる介護を求めて,おはよう21,Vol.16,No.9,P.12 〜21,2005.
3)長寿社会開発センター:居宅サービス計画書作成の手引,長寿社会開発センター,2006.
4)ケアプラン点検支援マニュアル,介護保険最新情報,Vol.38,2008.
5)コミュニティ・ケア・ネットいずみ:ケアマネジメントセミナー資料,2009.
6)森田靖久,二宮佐和子:介護給付適正化 ケアプランチェックの視点に基づく適切な居宅サービス計画とアセスメント,日総研セミナー資料,2008.



出典:達人ケアマネvol5. no4 2011年6-7月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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著者の関連書籍
自立支援型ケアプラン立案のための判断根拠がわかる!思考プロセス
A4判 240頁 定価4,260円+税
 

 

 

 

 


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