福祉と介護研究所
代表:梅沢佳裕


   

不適切ワード(7)『無関心/関心がない』

記録例1 
スタッフが午後のレク活動にAさんをお誘いするが,Aさんは全く無関心な様子でリアクションが乏しかった。

記録例2
Bさんは,ショートステイを利用後,デイ利用時も少し独語が目立つようになった。その件を相談員が家族に話すも無関心を装い,気のせいだと話す。


記録の背景(場面)の補足

 人は十人十色と言われるように,人それぞれの生き方,考え方を持っています。それは「個性」と表現することもでき,むしろその個性をいかにして持ち得るかということが,現代社会においての人材価値ともなっています。人が自分の生活の中で何に興味関心を抱き,どのような生き方を選ぶのか,それは利用者主体,自己選択・自己決定の介護保険においても,最も配慮されるべき事柄です。
 「無関心」という言葉の意味を皆さんはご存じですよね。後述しますが,興味を持たないということです。記録やケアプランでは,「興味」「関心」あるいは「意欲」といった言葉をたびたび目にします。高齢者は,心身機能の低下や認知症などによって,また生活環境の急激な変化が生じた場合にも,これらの意欲低下を引き起こすことがあります。そのような場面を,皆さんも実際に利用者とかかわる中で体験されたことがあることでしょう。利用者がある物事に興味を持たないという意味の「無関心」。介護記録に書いてもよいのでしょうか?

 

どこが,なぜ悪いか

 介護記録は,スタッフの行った介護内容を証拠として書き残すという目的もありますが,利用者の生活の様子を書き残すという目的もあります。利用者がどのような状況であったのか,文章を基に解釈されるということです。そういう意味では,介護記録は非常にデリケートな一面を持っています。
 「無関心」という言葉を書いてもよいのか,悪いのかということになりますが,これは使い方に少々注意が必要な語彙です。もともと利用者がある物事に関心を抱くか否かは,ご本人の意向によるものです。介護現場は,利用者の意欲低下を引き起こさないように,あれやこれやと興味関心を持っていただけそうな行事や趣味活動などの企画を提供しているわけですが,これが行き過ぎると,いわゆる「おせっかい」になってしまいます。
 このようにスタッフは,利用者の興味関心を引き出そうとするのですが,うまく興味を持っていただけないと,「無関心」という書き方で利用者の心情を表現するのだと思われます。この「無関心」とは,前提として関心を持つべき…という建て前のようなものがニュアンスとして含まれており,読む側にしてみれば関心を示さない・持たないのはいかがなものかと問わんばかりの想いにかられます。例えば,後述する辞書の使用例にあるような「教育に無関心な親」のように,我が子であるにもかかわらず,親が子供の教育に全く興味を持たない,つまり無責任だ! と揶揄しているような意味に見えてきます。
 このように,記録者本人はそんなつもりで書いたわけではないとしても,読み手がさまざまな解釈をしてしまうことが,介護記録のような公文書にはあり得ます。文章をもって利用者の状況を正確に伝えるというのは確かに難しいことですが,誤解が生じないように注意しながら介護記録を書いていきましょう。

 

本来の意味・適切な使い方

【無関心】

[名・形動]関心がないこと。興味を持たないこと。また,そのさま。
「―を装う」「教育に―な(の)親」 (デジタル大辞泉より)


書き換えてみよう

記録例1
スタッフが「午後のレク活動に参加しませんか」とAさんに声をかけたが,Aさんは返答なく,その場でじっといすに腰かけていた。

記録例2
Bさんはショートステイを利用後,デイ利用時も少し独語が目立つようになった。その旨を相談員が家族に伝えるが,「気のせいではないか」として,状況を受け入れ難い様子だった

 

 記録例1は,Aさんがレクに対して無関心であるということを記録に書いていましたが,スタッフは,レクに参加する人が意欲的で高評価な人であり,レクか活動に参加しようとしない人や拒否的な態度を取る人は問題ありと評価しているようで,どうもしっくりきません。
 先にも述べたように,例えば「関心がある」「興味がある」場合よりも「関心がない」場合はデリケートになると思われます。「関心がなくて悪いか!!」と言われそうな記録を無理に書かずとも良いのです。あえてそこに触れずに,事実としての状況を端的に書くという方法がよいと思います。
 記録例2ですが,「無関心を装い…」と書きたくなる場面があるかもしれませんが,介護記録に書いてしまうと,家族に対して非常に嫌味な表現に受け止められてしまいそうです。私たちは介護専門職として利用者のケアに当たっていますので,家族のそのような動揺した気持ちにも共感できるとよいですね。そうするとこの場合もあえて「無関心」とはっきりと書かずに,この例のように遠回しな言い方でオブラートに包んでおいた方がよいのではないでしょうか。

 

出典:真・介護キャリアvol12. no3 2015年7-8月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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