福祉と介護研究所
代表:梅沢佳裕


   

不適切ワード(9)『ムカッとする/イラッとする』

記録例1 
今日もA子さんが,同じテーブル席の方に居室から持参したお菓子を配っている。職員が「食べられない方もいますので…」とお願いするが,A子さんはムカッとした顔で職員をにらみつけ,居室に戻って行った。

記録例2
「もう少し丁寧な言葉で話していただけませんか。私はここを利用しているんだから」とイラッとするような言い方をする。B子さんの言動はいつものことだが,今後声かけの仕方に注意を要する。


記録の背景(場面)の補足

 今回のワードは,つい口をついて出てしまう方もいるかもしれない「ムカッとする」「イラッとする」という言葉についてです。テレビのバラエティ番組などでもたびたび芸人が話しているのを耳にしますし,意外と私たちの生活上の会話においても違和感なく使用されているため,その言葉の良し悪しについて考えたことはないのかもしれません。

 

どこが,なぜ悪いか

 「ムカッとする」「イラッとする」という言葉は,どちらも利用者の心情を表している語句です。確かに会話などでは「イラッ」「ムカッ」と話すことがあるかもしれません。しかし,この言葉は万人に共通で使用されていますか?
 介護記録に書く文章は,90歳の利用者であっても20歳の孫やひ孫であっても,記録を読むことで情報を共有できるような表現でなくてはいけません。そう考えると「イラッ」「ムカッ」は極めて怪しい書き方です。
 また倫理的側面からも問題があります。この書き方は,非常に心情をストレートに,むき出しのままで書いています。いわゆる若者言葉というものです。若者同士であればそれで会話が成立すればよいのですが,公文書ではそうはいきません。
当然のことながら介護記録は,情報開示によって利用者・家族の目にも触れます。
 過剰な敬語の使用などは必要ありませんが,軽率な表現もまた書くべきではありません。このように,若者を中心に新たに使用されている造語というものは,時に専門職としての記録物には適合していない場合がありますので,十分に注意して書くようにしましょう。
 次項に「イラッとする」の類語を示しておきました。これらは地域によって使用する・しないなどがあるとは思いますが,もし今まで一度でも会話などで使用したことがあれば,うっかりと記録に使用しないように気をつけましょう。

 

本来の意味・適切な使い方

【イラッとする】

物事に対して感じた憤りを表に出すこと。怒りの感情を抱かせるさま。
(Weblio類語辞典より)

〈類語〉
ムカッとする・プリプリする・機嫌をそこねる・機嫌が悪くなる・機嫌を悪くする・
気を悪くする・ヘソを曲げる・つむじを曲げる・むくれる・不機嫌になる・プンプンする・
ふくれる・ふてくされる・気色ばむ・ムッとする・プンスカする


書き換えてみよう

記録例1
今日もA子さんが,同じテーブル席の方に居室から持参したお菓子を配っている。職員が「食べられない方もいますので…」とお願いするが,A子さんは機嫌の悪そうな表情を浮かべると,居室に戻って行った。

記録例2
B子さんは「もう少し丁寧な言葉で話していただけませんか。私はここを利用しているんだから」とスタッフに不満げに話す。今後声かけの仕方に注意を要する。

 

 記録例1,2とも「イラッ」「ムカッ」を別の書き方に改める必要があります。書き方はいろいろとあると思いますが,まず記録例1は「ムカッとした顔で職員をにらみつけ」という文章を「機嫌の悪そうな表情を浮かべると」と書き直しました。「不機嫌そうな表情」でもよいと思います。
 また記録例2については,「イラッとするような言い方」を「スタッフに不満げに話す」としました。どちらも職員目線での記録になっているため,必要以上に過剰な表現になっていました。もう少し端的に事実を書くと,例えば「イラッとにらんだ」とか「ムカッとした言い方」などは,書く必要がなくなるわけです。「イラッとにらんだ」と書くと,にらまれた職員がよほど面白くなかったのかな,と読み取られますよ。

 

出典:真・介護キャリアvol12. no3 2015年7-8月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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