福祉と介護研究所
代表:梅沢佳裕


   

不適切ワード(12)『しでかす』

記録例1 
Aさんがまた大事(おおごと)をしでかした
隣室のBさんの部屋に入り,クローゼットの中をかき回していた。
Aさんに理由をうかがうと,「大切なものを取られた」と話している。

記録例2
Cさんはトイレの裏窓のほんの小さな隙間から,外に出て行った。
すぐにスタッフが気づき,後を追いかけて無事に確保した。
Cさんが,そんなことをしでかすとは思わなかった。


記録の背景(場面)の補足

 親が子どもに言い諭す場面などで「また,そんなことをしでかして!」という言葉をよく聞きます。また,介護スタッフも毎日忙しく業務を行っていると,だんだん職員本位の思考プロセスになり,つい「また,しでかしたの!」と言い放ってしまうこともあります。
 親が子どもを叱る際に言うのはまだよいとしても,介護スタッフが人生の大先輩である利用者に同じことを言い放って,本当に大丈夫なのでしょうか?
 しかし,介護というある種の特別な人間関係においては,時としてこのような言葉を発してしまうことがあり得るのです。専門職として非常に問題ある言動だと思いませんか?

 

どこが,なぜ悪いか

 介護する人,される人という関係性は,その両者が互いにどのような背景でつながっているかということにより違いがあります。例えば,娘が親の介護をするという関係やホームヘルパーが利用者の身体介護を行うという場面,さらにボランティアや隣人・友人など血縁ではない無償のつながりなど,いずれも介護者と被介護者という関係になりますが,被介護者である本人に対する想いとスタンス(立場)がそれぞれ異なるのです。「しでかす」という言葉を発する介護者は,無意識のうちに被介護者に対して優位に立っているという意識があるのかもしれません。
 「しでかす」という言葉は,“してしまう”という言葉に換語できるように,介護スタッフにとって,困りごとを引き起こされたという意味があります。つまり,言われた方の利用者を非常に申し訳ないという気持ちにさせてしまいます。
 しかし,本来はその引き起こされた事柄についてしっかり対応していくのが,介護スタッフとしての役割です。介護専門性からとらえた職業倫理に照らしてみると,「しでかす」は,間違いなく言葉の虐待に匹敵する言葉ではないかと考えられます。
 日常的にこの言葉を浴びせかけられた利用者が,気持ちを落ち着けていられるとは到底思えません。もし仮に皆さんが二世代近くも年下の人から同様の言葉を言われたならば,どんな気持ちになるでしょうか? それ以上は言うに及ばずですね…。

 

本来の意味・適切な使い方

しでかす【仕出かす・為出来す】(大辞林 第三版より)

(動サ五〔四〕)
してしまう。やってのける。困ったことを引き起こす場合に使う。「大それたことを−・す」


書き換えてみよう

記録例1
Aさんが以前と同じように,隣室のBさんの部屋に入り,クローゼットの中をかき回している。
Aさんに理由をうかがうと「大切なものを取られた」と話している。

記録例2
Cさんはトイレの裏窓のほんの小さな隙間から,外に出て行った。
すぐにスタッフが気づき,後を追いかけて無事に帰所する。

 

 記録例1の「また大事をしでかした」にはスタッフの私情が入っているため,適切な書き方ではありません。しかし,この利用者Aさんについては,「また…」と書いていることから,前にも同じようなエピソードがあり,今回も同様のことを引き起こしたということでしょう。それであれば,修正後の記録例のように書けばよいと思います。
 記録例2は,「確保」という言葉も間違いです。非常に管理的な言葉で,大切な利用者に対する言葉ではありません。最後の一行「そんなことを…」は,まさにスタッフの感想文ですね。余計なお世話と言いたくなるセンテンスです。スタッフの驚きが表現されていることは分かりますが,これは日記ではなく,介護記録という公文書ですので,書く場所を間違えないようにしましょう。

 

出典:真・介護キャリアvol12. no5 2015年11-12月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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