福祉と介護研究所
代表:梅沢佳裕


   

不適切ワード(16)『〜してあげる』

記録例1 
Aさんがトイレを探して廊下をウロウロと歩いていたため,
トイレまで連れていってあげる

記録例2
AさんがBさんに何かを話しているが,伝わらない様子だったので,
スタッフが間に入り代わりにBさんに伝えてあげた


記録の背景(場面)の補足

 介護記録を読んでいて,時々目につく言葉として「〜してあげる」があります。本当に書いているのかと目を疑いたくなる言葉ですが,本当に書いてありました。おそらく介護スタッフの心理として,認知症や介護度が重い利用者に対して使用される傾向があるのではないでしょうか?

 一人で苦戦している子どもに対して「○○ちゃん,お母さんが△△してあげますからね〜」と言いながら,母親が手伝ってあげるというシーンがあります。これは親子だから特別違和感がないと思うのです。しかし,介護スタッフと利用者との関係性において同じような声かけが行われているとすれば,それはとても違和感があるのではないでしょうか。

 皆さんは生活場面のケアの中で,このような表現を用いたことはありませんか? 改めて考えてみると,その意味は周知の事実と思われがちなこの言葉を,案外無意識に使用してしまうことがあります。

 それでは,「〜してあげる」について,記録への記載が適切か否か考えてみることにしましょう。

 

どこが,なぜ悪いか

 介護スタッフは,利用者との契約に基づいた対等な関係性の中で,利用者の意向によるサービスを提供しています。しかし,介護度が重くなってくると,利用者は意向を介護スタッフに適切に伝えることが困難になってくるため,だんだんと介護スタッフ本位のケアとなってしまうことがあるのだと考えられます。

 また,介護現場は常に多忙で,時間的な余裕がない中でサービス提供が行われています。そうすると,現場はスムーズに業務を進めたくなりますので,ケアが利用者本位ではなく介護スタッフ本位になってしまうのです。介護スタッフ本位になってくると,介護スタッフと利用者の関係性が対等ではなくなります。

 「〜してあげる」という言葉は,上司や目上の人に対して使用すると乱暴で失礼な印象を与えます。子どもや目下の人に使用する分には何ら問題はありませんが,敬意を表すべき高齢者に対しての使用は適切ではありません。

 介護スタッフが「〜してあげる」という言葉を使用すると,他者には「自分が利用者よりも上に位置して(偉そうに)介助を行っている」と受け取られる可能性があります。もし,そのような記録を情報開示によって本人や家族が目にしたならば,どう思われるでしょうか。とても不愉快な思いをして,クレームにつながることもあるかもしれません。記録でもつい無意識に使ってしまいそうな言葉ですが,細心の注意を払っていただきたいと思います。

 

本来の意味・適切な使い方

【〜(で)あげる】 (大辞林 第三版より)

(補助動詞)動詞の連用形に接続助詞「て」の付いた形に付き,主語で表されるサービスの送り手が,他人のためにすることを,送り手の側から表す。(普通は仮名書き)《上》「友達に本を貸して−・げた」「お宅まで送って−・げましょう」〔「…てやる」と異なり,受け手に対する軽い敬意がこめられている。目上に対しては「さしあげる」を用いるのが一般的〕


書き換えてみよう

記録例1
Aさんがトイレを探して廊下を歩いている様子だったため,
「お手洗いですか?」と声をおかけして,トイレまで一緒にお連れした。

記録例2
AさんがBさんに何かを話しているが,伝わらない様子だった。
そこでスタッフがAさんから主旨をおうかがいし,Bさんに伝えご理解を得る。

 

 「〜してあげる」は,単に心に抱いているそのような心情が言葉になってしまったということだと思いますので,言葉の使用を注意するということだけではなく,利用者に対する視点を見直すことも併せて大切だと思います。記録例1・2ともスタッフの私情・所感を交えずに,実際に行った介助や声かけの内容を端的に記載するように書き換えています。

 

出典:真・介護キャリアvol13. no1 2016年3-4月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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