NPO法人丹後福祉応援団 デイサービス「生活リハビリ道場」
理学療法士:松本健史


   

拘縮を予防するには?

 今回は,関節拘縮について考えてみたいと思います。施設や在宅での長期療養でよく見られる「拘縮」は,病院の治療では,ROM(range of motion:関節可動域訓練=関節を動かすリハビリテーション)が実施されますが,病院を退院した「生活期」では,放置されてしまうことも多いです。関節拘縮は進行性であり,気がつくと関節がガチガチに固まってしまい,生活動作が困難になってしまうというリスクがあります(図1)。そのため,早期発見と予防に努める必要があります。
 拘縮は関節を動かすことで治そうと考えがちですが,できてしまった拘縮を治すことはなかなか大変です。実は,拘縮をつくらない生活づくり,または兆候を見つけて早期に芽を摘むかかわりが最も重要なのです。本稿では,現場で役立つ視点とかかわりについてお伝えします。

 

関節拘縮とは

 まず,関節拘縮とはどんな状態かを確認してみましょう。『実用介護事典』(講談社)には,次のように記されています。
 「関節の動きが制限された状態のこと。筋肉のつっぱりや短縮,関節周囲の靭帯や腱,皮膚の短縮などによって起こる。曲がった状態で伸びないのを屈曲拘縮,伸びた状態で曲がらないのを伸展拘縮という。片麻痺では上肢は屈曲拘縮,下肢は伸展拘縮になりやすい。介護者には,寝たきりやからだを動かさないことによる拘縮を起こさない介護をすること,拘縮した手足に合った介護を工夫することが求められる」1) 関節を動かさない状態が4日以上続くと,関節内部の組織の変性が起こり,柔軟性が低下します。さらに,その状態が2〜3週間持続すると,はっきりと分かる関節の可動域制限が発生すると言われており,入院時,安静臥床などで起こってしまうことが多々あります。入院時は病気の治療が優先されるため致し方ない部分もありますが,退院して生活期に,関節を動かさない不活発な状態にならないように配慮する必要があります。

 

寝たきりで関節に卵焼きが出来上がる!?

 重度の拘縮で手強いのが,関節構成体の癒着,硬化です。卵焼きをつくる時,卵をフライパンに流し込み巻いていきますね。タンパク質は加熱されたり,押しつけられたりすることで接着剤のようになる性質があります。タンパク質の接着効果で卵焼きは巻くことができるのです。
 進行した関節拘縮もこのイメージに近いものがあります。筋肉・靭帯・関節面といった本来独立して機能する関節内の軟部組織がべったりと癒着してしまった状態です。いわば関節内で卵焼きが出来上がった状態です。ケアスタッフは,生活の中で利用者の関節内の癒着を防ぎ,生活に必要な可動域が確保できるように配慮しなければなりません。

終末期にこそ大事な拘縮予防

 は,大田仁史氏が提唱している「終末期リハビリテーション8カ条」です。「(4)著しい関節の変形拘縮の予防」について大田氏は,進行した関節拘縮の方が亡くなった時には,棺(ひつぎ)に入らないので,関節をハンマーで叩いて壊すという事例を紹介しています。懸命に生きた人の最期がそのような結末でよいのか,と憤りを感じずにはいられません。
 また,「(1)清潔を保つ」とありますが,拘縮を予防する第一の目標となるのは「全身の清潔」です。ケアスタッフは,利用者の不潔になりやすい場所を知り,その部位の清潔を保つために関節の可動域を保つ知識と技術が必要です。ただやみくもに関節を動かそうとするのではなく,何を目的に関節を動かすのかを考えてみてください。そうすると,生活の視点で拘縮予防のケアをすることができます。

 

拘縮が発生しやすい部位とその原因

 拘縮の発生は,筋肉の短縮からはじまります。筋肉が短縮すると関節が影響を受け,屈曲拘縮(あるいは伸展拘縮)が発生します。次に,典型的な関節拘縮を紹介し,その対処法について記します。

◎上肢
典型的なのが上肢の拘縮であり,屈筋群が強く,屈曲位に拘縮してしまうことが多いです。
指関節
 写真1のように握りしめられた掌は不潔になりやすいので,開くことで清潔を保ちたいところです。まずは手指がどれくらい開くか確認が必要です。握った状態が継続すると,爪が掌に食い込み,傷をつくってしまうことがあるので要注意です。
肘関節
 写真1のように肘が屈曲している場合,特に上腕二頭筋(力こぶをつくる筋肉)が緊張しているため,筋肉をほぐしてから伸ばすという手順が必要です。入浴後などリラックスしている時の方が筋肉が弛緩し伸びやすいので,そういったタイミングも配慮しましょう。
肩関節
 上腕が体幹に引き寄せられ,きつく脇がしまっている場合(写真2),大胸筋など胸の筋肉が緊張していることが多いです。脇の下は汗をかきやすく,不潔になりやすいため,開いて風通しをよくしたり,入浴時に洗って清潔にしたりするなど配慮が必要です。

◎下肢
股関節
 股関節は臼関節と呼ばれ,可動範囲の大きな関節です。したがって,いろいろな方向を向いて固くなっていることがあります。写真3は,運動学で「外旋」という肢位になっており,両足が開脚状態で拘縮しています。この反対に「内旋・内転」の肢位で固くなってしまうケースもあります。
膝関節
 膝関節の場合,屈曲拘縮も伸展拘縮もよく見られます。膝に限りませんが,緊張している筋肉に早めに気づくことができれば拘縮に対処できるため,利用者の体の変化をよく観察する必要があります。
 写真4では,膝の関節の拘縮が始まり,膝を曲げる屈筋群(ハムストリングス)に筋緊張があることが観察されました。
足関節
 足の関節では,「尖足」と呼ばれる底屈位での拘縮が多発します(写真5)。なぜでしょうか?
尖足拘縮が発生するメカニズムを知っておきましょう。図2のように,尖足は寝たきり生活で簡単につくられてしまいます。拘縮は気づかぬうちに忍び寄り,あっという間に重度化してしまうので,臥床時間の長い人には,いかに座る生活をつくるかが,ケアチームの腕の見せどころと言えます。

 

拘縮の予防とストレッチ
解剖学を理解し,関節の動かし方をマスターしよう!

 拘縮の予防には,早期発見とストレッチが大切です。前述した関節が曲がっている方向と緊張している筋肉を意識して,ストレッチする方向や強さを加減します。力を入れて行う必要はありません。「1日1回,関節の最大可動域(動く範囲)を動かす」というケアで拘縮の悪化は防げるとされています。
 ストレッチは,痛みを与えないように,本人の顔を見ながらゆっくり丁寧に動かしましょう。表情が痛そう,手を払いのけようとするなどの拒否の動作が見られるのは,痛みを与えてしまっているからです。痛みは心理的な緊張を生み,筋肉の緊張を誘発するため禁忌です。「関節が動いて気持ちが良い」と思えるような強さで愛護的に動かすのがコツです。

◎手指関節
 冒頭に記したように,拘縮している関節は筋肉の短縮が原因です。その筋肉を痛みを与えずに伸ばすには,解剖学の知識を押さえた上でのテクニックが必要です。ここでは,固く握られた手指を開く方法を紹介します。
 指を開く場合,腕を伸ばして指を開こうとしてしまいがちですが,このようなストレッチは相手に痛みを与えてしまいます(写真6)。
 解剖学的にいうと,指を伸ばそうとする前に,肘を曲げる,手首を曲げることにより,筋肉の起始と停止部が近づき,筋肉が弛緩し,これにより指の関節が開きやすくなるのです。
 肘・手関節の屈曲を維持し,そっと指を開いてみましょう(写真7)。ずいぶん開きやすいはずです。
 こういった解剖学にのっとった手技により,相手の負担を軽減して,関節をストレッチすることができます。入浴時にこの手技を使うと,掌を清潔に洗うことも可能です。

◎足関節
 足関節の尖足に関与している筋肉は底屈筋(主に腓腹筋・ヒラメ筋)です。これらは,かかとの骨(踵骨)に停止しており,伸ばすためには踵骨をしっかりとホールドし,つま先を押し返すようなストレッチが効果的です(写真8)。
 このストレッチの際も,解剖学の知識が役立ちます。足関節を動かす際,膝関節が伸びているのと曲がっているのとでは可動域が変化します。膝を曲げることで腓腹筋が緩み,足関節の背屈が行いやすくなります。

 

拘縮は生活の中で治せる!
生活姿勢を大切にすることで改善したケース

 関節拘縮予防のストレッチをしたくても,業務に追われ,なかなか行うことが難しいのが本音ではないでしょうか。ストレッチを行わずに「生活の力(環境設定と姿勢づくり)」によって拘縮が改善した例があります。
 Aさん(男性,88歳)は,腰椎圧迫骨折で入院治療後,3カ月で退院されました。退院時,体幹に大きなコルセットを装着していました。入院中の寝たきり生活により足関節に尖足が発生し,車いすのフットレストから前方に足が落下しそうになっていました。
 そこで,移乗時には床に足をつける,しっかりといすに座って食事をする,などの生活動作と姿勢づくりをしたところ,7カ月後にはしっかりと地面に足が着いた姿勢となっていました(写真9)。

 

拘縮予防にお勧めのレクリエーション

 拘縮を治す力がある活動的な座位姿勢。それには楽しいレクリエーションも効果的です。最後に,筆者が考案したリハビリテーション遊具を紹介します。
《自然と手が動く! 面白スポーツ Ban! Ban!バルーン》写真10
 プカプカ浮いた風船をサークルの中央めがけてパンチングし,風船にぶら下がっている重りの位置で得点を競います。チームで対戦し,カーリングのように相手のバルーンをはじき出したり,行く先を邪魔したりする頭脳戦で大いに盛り上がります。白熱のゲームに興奮して,利用者の手と体幹はどんどん前へ前へと活発に動きます。
 このほかにも,平行棒での歩行時に目標物としてバルーンを叩きながら歩く,車いす駆動時に叩きながら前進する,運動会ではリレーのバトンの代わりに使うなど,さまざまな使い方ができます。
また,施設のレクリエーションや運動会に役立つと思います。

 

まとめ
 拘縮はいろいろな関節に発生し,疾患や発生からの期間,生活の仕方などでその様態は十人十色です。しかし先述したように,解剖学・運動学の知識を動員すれば,対処の方法が見えてきます。発見の方法やストレッチの方法,生活づくりの視点を紹介しました。そして,チームでアプローチすれば,拘縮の発生を未然に防いだり,悪化を予防したりする生活づくりも可能です。ぜひ,明日から現場で拘縮の予防・改善のアプローチを始めてみてください。

引用・参考文献
 1)大田仁史他:実用介護事典,講談社,2005.
 2)大田仁史・三好春樹監修編著:完全図解 新しい介護,P.231,雲母書房,2014.
 3)勝田治己他:老人の姿勢と体幹機能,理学療法ジャーナル,Vol.25,No.2,P.82 〜87,1991.
 4)大田仁史:終末期リハビリテーション,荘道社,2002.
 5)松本健史:通所サービス 間違いだらけの生活機能訓練 改善授業,日総研出版,2014.
 6)加藤慶,松本健史監修:早引き 介護の拘縮対応ケアハンドブック,ナツメ社,2014.

 

出典:通所介護&リハvol12. no4 2014年11-12月号 ※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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