名古屋市社会福祉協議会
昭和区介護保険事業所 副所長
谷口法絵


   

コーチングの3大テクニック(1) 傾聴

 第1回では,サービス提供責任者が登録ホームヘルパーの人材育成を行うことは職務であることと,コーチングの大まかな説明をしました。今回は,コーチングの3大スキルと言われる「傾聴」「承認」「質問」の中でも,対人援助の中では一番のベースとなる「傾聴」のテクニックについて,職場の先輩,後輩の会話形式で分かりやすくお伝えしたいと思います。


◎傾聴の基本は聴く姿勢を整えること

主任 今回は,傾聴について話をしていくね。
サ責 はい! 楽しみにしてきました。
主任 傾聴ってどういうことだと思う?
サ責 えっ! いきなりですか〜? 「相手の話を聴く」ってことですよね。
主任 そう,相手の話を聴くことよね。
サ責 この前も言いましたけど,私,ヘルパーさんの話,結構聞いてますよ。仕事の話…愚痴なんかも聞いてあげて。この前なんか長坂ヘルパーさんから延々と利用者さんの愚痴を聞かされました。「掃除機をかけてると後ろからついてきて話すから,いちいちスイッチを切って話を聞いてるんです」とか…。
主任 ヘルパーさんたちも大変だものね。
サ責 ストレスたまりますからね。特にヘルパーさんたちは直行直帰だから,誰にも言えないし,たまに事務所へ来たら聞かなきゃって。
主任 中島さんも忙しい中,ありがとう。でも聞いてあげてるって感じ?
サ責 う〜ん,そう言われると上から目線なんですけど,「それくらいのことは頑張ってほしいなあ〜」とか,「やらなきゃいけないことがあるんだけどなあ」って思いながら聞いちゃうこともあります…。
主任 それは仕方がないのかもね。だって忙しいんだもの。
でも,少し気にかけることで聴き方が変わるかも。
サ責 まずはどうするといいんでしょう。
主任 その前に,「聞く」と「聴く」は違うんだけど分かる?
サ責 「聞く」と「聴く」が違う? う〜ん,考えたことありませんでした。自信ないですけど,聞こえてくるものは何でも「聞く」で,自分が注意して聴きたいと思うものが「聴く」かなあ。
主任 そうよ。だからヘルパーさんたちの話は?
サ責 「聴く」ですね? そうか。ボーっと聞いてちゃいけないんですね。
主任 そう。そのためにもまずは聴く姿勢を整えることが大事よ。テクニックの前にまずは基本的な話。他事をしないで話を聴くことに集中する。中島さん,ヘルパーさんの話を聴きながらほかのことをしてない?
サ責 う〜ん,月末は皆さんが報告書を持ってくるから,その確認をしながら話を聞くことはあるかもしれないですね…。
主任 電話で話す時は,相手が見えないからって気を抜いてない?
サ責 うわ〜,そうですね。聞いているふりをしながら,全然関係ない利用者さんの書類を見ていたり,パソコンを操作していたりすることもあります。だって同じことを何度も繰り返して話されたり,仕事とは関係ない話をされたりすると,ついね〜。
主任 確かに気持ちは焦るんだけど,ヘルパーさんは自分に集中されてないって思うと「このサ責さん,ちゃんと私のこと分かってくれてるのかな〜」って感じると思うわ。電話でも,不思議に気配を感じるものなの。
サ責 そうですね…。
主任 中島さんが話をしてる時,お友達がスマ−トフォンを触ってばかりで自分を見ていないとしたらどう思う?
サ責 そうですね〜,ちょっとさみしいかもしれません。
主任 そうよね。ただでさえ視線が合わないとさみしく感じるのに,自分が一生懸命仕事していることについての話を真剣に聞いてくれていない,って感じたら…。
サ責 さみしいどころか怒れちゃいます!
主任 それから,目線を同じ高さにすることって大事よ。
相手は立っているのに自分が座って話を聴くのってどう思う?
サ責 失礼ですよね。でも,私たちが机で書類を整理してるとヘルパーさんが事務所に来て…,なんていう場面だとついついそういうことがあります。そういう時は自分も立つか,ヘルパーさんに座るよう声をかけるかしないと。偉そうに座ってちゃいけませんね。
主任 確かにサ責とヘルパーさんは上下関係があると思う。でも,同じ利用者さんを援助する仕事仲間の話を聴くと思ったら,姿勢はおのずと身についてくるわよ。だからまずは相手の目を見て,「私は聴いていますよ」っていう態度で話を聴くように心がけてみて。
サ責 ほんと,そうですね。これからはヘルパーさんの話は姿勢を整えて聴くようにします!

 

 

◎相づち・共感とは?



サ責 姿勢を整えたらどうすればいいですか?
主任 じゃあ,ここからが本題。傾聴のテクニック(表1)について話しますね。
サ責 教えてください! 急にはできないけど,少しずつでもやっていきたいんです。
主任 話を集中して聴けるようになったら,相づちやうなずきを気にするといいね。
サ責 相づちって,「そう」とか「へえ」とか「ほ〜」とかいうのですか?
主任 そうよ。そういう相づちがあると,相手は「反応してくれているんだ」「私の話を聴いてくれているんだ」って安心できるでしょ。
安心すると「私は話をしていていいんだ」と思えるの。だからますます話をしてくれる。
サ責 そうなんですね。
主任 さらに,「なるほどね」とか「そうなんだね」って言えるようになると,「私の言うことに共感してくれたんだ」って思ってもらえる。
サ責 「共感」ですか。
主任 相づちや共感のタイミングが取りにくければ,ただ笑顔で聴くのもありよね。
サ責 とにかく「ヘルパーさんの話を聴いているよ」っていうサインを出すのが大事なんですね。相づちを入れる,共感する,うなずく,笑顔で聴く,同じ目線で聞く。どれも大切なことですね…。
主任 共感することで気をつけることが一つあるの。それは「同感」しないこと。
サ責 共感と同感って違うんですか?
主任 そうよ。共感っていうのは「あなたはそう思うのね」ってこと。同感は「私もそういうことある」って自分の立場に置き換えてしまうこと。同感は自分本位になってしまうから,つい自分の話をしてしまう。そうすると,相手は自分の話を聴いてくれていないのかなって感じることになるから気をつけてね。
サ責 そうですね。相手の話を聴くことに集中することは大事ですね。

 

◎要約すること,代弁すること

主任 相づちや共感は,ある程度対人援助職として自然にできていることかな,と思うの。
でも,これから話すことは本当にテクニック。ちょっと難しいかも。
サ責 何ですか? すご〜く難しいことですか? 私にできるのかなあ。
主任 「要約」はね,傾聴する時,気にしている必要があるかも。
サ責 えー,何ですかそれ〜,聞いたことない!!
主任 いやいや,やってることあると思うよ。
例えばヘルパーさんがこんな話をすることあるでしょ。

 利用者さんは高血圧なんだけど,いつも脂っこいものばかりつくるように言われるんです。私はなるべくほうれん草のおひたしとか,大根の煮物とか,焼き魚とか,あっさりしたものをつくるよう提案するんです。でも,今日はてんぷらがいいとか,豚の生姜焼きをつくってくれとか言われて…私,心配なんですよ。

サ責 どこかで聞く話ですね…。
主任 この話を要約してみると…?
サ責 うーんと,「あっさりした料理を提案しても受け入れられなくて心配なんですね」ってことでしょうか。
主任 そうそう,それが要約っていうの。相手が話をした後,その「要約」したことを確認のつもりでヘルパーさんに返してみて。そうすると,ヘルパーさんは頭の整理もできるし,ちゃんと話を聴いてくれてるんだ,って分かるでしょ。
サ責 そうですね,話をちゃんと聞いていないと要約ってできないですもんね。
でも,うまくまとめられるかなあ…。
主任 そういう時は,よく出てくる言葉を合間に言うのもいいかな。
サ責 そうですか。キーワードを気にすることならできるかもしれません。
主任 「代弁」を使ってもいいわね。さっきの会話だったら「どうしたら利用者さんが提案を受け入れてくれるかなって考えてるんですね」って。
サ責 「代弁」ですか。ヘルパーさんの代わりに気持ちを言うってことですね。
主任 ただ話を聴いてうなずいたり相づちを打ったりするだけでなく,相手に言葉で反応することも大事なのよ。

 

◎高度なテクニック? ペーシング=相手に合わせる

主任 次は,少し難しい技術を2つ。まずは「ペーシング」っていう技術。
サ責 ペーシングって「相手にペースを合わせる」っていうのと何か関係ありますか?
主任 よく分かったわね。そう,相手のペースに合わせて話を聴くことなの。中島さんがゆっくり話しているのに相手が相づちを早く打ったり「それから?」って話を急かしたりしたらどう?
サ責 落ち着いて話せないかもしれませんね。
主任 そうね。自分のペースを乱されると話しにくいもの。
でも,相手が自分に付き合って話を聴いてくれていると感じたら?
サ責 話しやすいでしょうね。
主任 ペーシングってそういうことなの。相手のペースに合わせて話しやすくする。
相手の「話の速さ」「声のトーン」「テンション」なんかを合わせていくの。
サ責 そうですね。明るく話しているのに相手が暗い顔をしてたら話しにくいですよね。
それに,自分のテンションが低い時に相手のテンションが高かったらつらいですし…。
主任 相手のペースに合わせるだけで話しやすくなる。これはできそうじゃない?
サ責って相手の様子をちゃんと見てる人が多いし。
サ責 これは気にすればできるかも。

 

◎ミラーリング=写し鏡?

主任 もう一つは「ミラーリング」っていうテクニックよ。
サ責 鏡は英語で「ミラー」ですけど,関係あるんでしょうか?
主任 当たり! 「ミラーリング」っていうのは相手の「しぐさ」とか「表情」を自分が鏡に映したようにするの。相手の真似ね。人って自分と同じだと仲間意識が生まれるでしょ。よく初対面の人と共通点を探して話題をつくることしない?
サ責 します! 血液型とか星座とか,出身地とか。
主任 人って相手と共通点があると,親しみを持つ。同じことをすることでも親しみを持つんだって。例えば髪の毛を触っていたら自分も髪を触る。ペンを持ってたら自分もペンを持つ。
サ責 それだけのことですか?
主任 それだけのこと。でもわざとらしくなく,一緒のことをするって結構難しいよ。
それに話を聴きながらミラーリングをするんだから。
サ責 そうでした…。話を聴く姿勢を整えた上でのミラーリング…。できるかな。
主任 少しずつ,慣れていくのが大事よ。じゃあ,試しに少し傾聴をしてみましょうか。

やってみよう! 傾聴

 2人1組になります。聴き手・話し手を決めましょう。
  (1)話し手は自分の趣味について話をしてください。
  (2)聴き手は
    初めの1分
…マネキン(反応しない)になって聴きます。
    次の1分……うなずき・相づちを意識して聴きます。
    次の1分……共感・要約・代弁を意識して聴きます。
    次の1分……ペーシング・ミラーリングを意識して聴きます。
  (3) どの態度が話しやすかったか,聴きやすかったかを話し合ってみましょう。


サ責 いやー,難しい! 傾聴って結構できてると思ったんですけど,奥が深いですね。
少しずつやってみます!

 

まとめ

 今回は,「傾聴」についてお伝えしました。傾聴は対人援助職の基本なので「サービス提供責任者は傾聴ができている」と思っていました。しかし,「聞く」ではなく「聴く」ことができているかと振り返ると,どうでしょうか。忙しい毎日ですが,相手の話を「聴く」ことは信頼関係を築く第一歩であるということを念頭に置きましょう。傾聴のテクニックを意識することで,今まで以上にホームヘルパーとの距離を縮めることも可能です。
 傾聴する側の姿勢によって,ホームヘルパーが安心感を持って話してくれるようになり,自分が話したことで自分自身が何を考えていたかに気づきます。さらに,それが自発的なアクションにつながっていきます(表2)。それは,ホームヘルパー自身のモチベーションアップでもあり,コーチングの目的である「相手のやる気や能力を引き出す」ことにもつながっていくと考えています。


参考文献
 1)間裕子:在宅ケアに活かすコーチング,日本看護協会出版会,2007.
 2)佐野愛子:名古屋市社会福祉協議会ミドルマネジャー研修資料,2014.
 3)WinWin育成協会:コーチングベーシックコーステキスト,2009.
 4)諏訪茂樹:人と組織を育てるコミュニケーショントレーニング,日本経団連出版,2000.





 

出典:訪問介護サービスvol.13 no1 2015年11-12月号
※筆者の所属・役職は執筆当時のものです。
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