ケア場面別の留意点と工夫
認知症利用者・中重度利用者 生活機能訓練



利用者の心を動かし意欲を引き出す環境づくりとかかわり方!


  私は理学療法士として,地域リハビリテーション活動を行ってきました。在宅や介護現場で高齢者の身体機能に合った介助法の提案,機能訓練を実施したり,環境設定を考えるといった活動です。そういった活動の中で,昨今,胃ろうやウロバッグ(蓄尿バッグ)といった経管処置をされているような医療依存度の高い重症の人や,認知症を患った人が在宅で生活するケースが急激に増えたと実感しています。
 施設やデイサービスでの機能訓練の役割も変わってきました。これまでは自立度の比較的高い利用者を対象に介護予防を目的とした訓練が主でしたが,最近は医療依存度の高い利用者や認知症の利用者に対する在宅生活の継続に向けた機能訓練が重要度を増してきていると思います。
 老々介護,独居老人,孤独死,徘徊老人などといった言葉が新聞紙上をにぎわしています。また,家族が介護のために退職を余儀なくされる「介護離職」も問題視される中で,私たちは中重度や認知症の利用者が在宅で,いかに安心して暮らせるかという大きな難問と対峙しなければなりません。
 2015年度の介護報酬改定で,厚生労働省はデイサービスに対し「中重度であっても社会性の維持を図り,在宅生活の継続に資するケアを計画的に実施するプログラムを作成すること」と中重度の利用者への対応を呼びかけ,中重度者ケア体制加算(45単位/日)を新設しました。これからは中重度者の社会性の維持(役割づくり・社会参加)を念頭に置いたプログラムを立案し,実施していくことが求められます。
 また,認知症の人が今後急増するという予測があります。その社会に対応するため,
2015年1月「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」が策定されました。その中で「認知症の人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」と記され,「認知症の容態に応じた適時適切な医療・介護等の提供」の必要性が求められると同時に,介護報酬においても認知症加算(60単位/日)がデイサービスに新設されました。
 本書は,2014年5月に刊行した拙著『「間違いだらけの生活機能訓練」改善授業』の内容をさらに一歩進めて,私たちがこれまであまりかかわる機会が少なかった認知症や中重度の利用者を想定して,生活機能訓練の実施方法と注意点を明記しました。当然のことながら,訓練さえしていれば「元気になる」「病気が治る」というわけではありません。しかし,利用者の生活を知り,生活の中で大切なポイントを押さえた訓練プログラムが実施できれば,効果は格段に上がります。認知症・中重度の利用者の残存機能を生かして在宅生活の継続と自立度を高めるためには,機能訓練のみならず,環境を整えることやかかわり方の工夫をすることなど,あらゆる角度から手を尽くす必要があります。大変ではありますが,それが「介護」という,現代に残された数少ない「創造的な仕事」の楽しさでもあると思います。皆さんが対応に難渋するケースに出会った時の参考にしてみてください。
 福祉用具や住宅改修などの事例を挙げた環境設定,声かけや家族とのコミュニケーションなどのかかわり方にも言及しています。こういった総合的なアプローチをすることで,さらに効果が期待できます。
 また本書は,先述した拙著と同様に解説のほとんどを会話形式で表現しています。“リハ達人(生活リハビリの達人):理学療法士・介護支援専門員ケンジさん”と“機能訓練指導員になったばかりのベテラン看護師ジュンコさん”,そして,“フィリピンから日本にやって来た新人介護職マイラさん”が登場します。介護人材不足が叫ばれる中,日本の介護施設や事業所に外国人労働者が入職するケースも増えています。介護現場では,多職種連携の大切さが叫ばれ,実践が積み重ねられていますが,外国人と対話する,そんな場面もこれからますます増えてくることでしょう。日本の医療・介護の質は高く,特にホスピタリティ(おもてなし)の質の高さは,海外からも絶賛されています。こういったハード・ソフト面の技術が海外でも求められていくことでしょう。そのため,介護現場で働く私たちは文化の違う海外の人にも日本の介護の方法論を知らせていく,そんな役割も増えてくるはずです。自分ならどのように説明す
るだろうか? そんなことも考えながら本書を楽しんでいただけたらと思います。
 本書を読まれたことで「日頃の業務に役立った」「利用者さんが元気になった」そんな声が聞けたらうれしいです。そして,中重度の利用者,認知症のある利用者が安心して利用できる,そんな介護サービスを目指す皆さんの一助として本書が役立てば,それに勝る喜びはありません。
 最後に,本書を完成するまでに多くの方々の支えと励ましをいただきました。NPO法人丹後福祉応援団理事長の三井真里氏をはじめ,一緒に働いている職場の仲間たち,地域で連携させていただく医療福祉関係の職員の皆さん,たくさんのことを教えてくださる人生の先輩である利用者の皆様,いつも応援してくれる家族,本書の企画編集に携わっていただいた日総研出版の西本茂樹氏に心から感謝を申し上げます。

2016年7月  松本健史

 

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認知症利用者・
中重度利用者
生活機能訓練
B5判 192頁
定価2,778円+税
 
 

 

 


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